りぷれい

桃青

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8.お散歩楽しや?

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 そう言うと私は慌てて母の前に立ち、母の姿を隠そうとした。高木さんは木々の緑でむせかえる道を歩きつつ、大きく手を振って、叫んだ。
「前田さーん!」
 背後で母が言う。
「私も手を振ろうかしら」
「やめて」
 私がそう母を押しとどめていると、高木さんはもう目の前まで来ていて、私に向かって話しかけてきた。
「めずらしいわね、一人じゃなくて、誰かと一緒にお散歩をしているなんて。後ろの方はどなた?」
「おはようございまーす」
 そういう母を遮るように、私は言った。
「親戚の叔母です。事情があり、今しばらく家にいる予定です」
「あらそうなの。声が、あなたのお母さんにとてもよく似ているわね」
「姉妹ですから。では私達は急ぐので」
「もうちょっといいじゃない。散歩に急ぐも何もないでしょ。おばさんはどちらからいらっしゃったの?」
「空の上からよ」
 母の答えを聞き、高木さんはピタッと動きを止めた。
「空の上? ……ああ、飛行機ってことかしら」
「違うわ」
 そう言う母を見て、何とか会話を止めなければと思いながら、必死に私は言った。
「違うけれど、似たようなものです」
「違うけれど似たようなもの? 意味が分からないわよ。でもあなたも……、お母さんを亡くされて、どれくらい経ったの?」
「ほぼ一年です」
「もう一年。大変だったでしょう。お母さんはいい人だったし、あなたのお父さんと一緒に買い物に行く姿を、何回見かけたことかしら。仲のいいご夫婦だったわよね」
「ええ、そうですか」
「あの、おばさんは、道子さんのお母さんのことをどう思っていらっしゃる―」
「申し訳ないのですが、私達はちょっと予定があるので、この辺で失礼させていただきます」
 そう言って深々と頭を下げてから、母の腕をぐっとつかんで、猛烈なスピードで歩き出した。母は背後を振り返りつつ、言う。
「高木さん、呆気にとられた顔をして、こっちを見ているわよ」
「いいから歩いて!」
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