りぷれい

桃青

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 母が生きていたころ、彼女は私にとって絶対的存在であり、常に私を支配していた。つまり母が生きている限りは、私に自由も自立もなかったことに、母を亡くしてしばらくしてから私は気付いた。
 母に悪気はない。母に間違いもない。それでも私は、母が嫌いだった。世間的に見れば、母が白で私が黒なのかもしれない。否定されるべきは私の方なのかも。
 でも私は大人になるために、母を否定し、否定し、否定し続けてきた。この葛藤が誰かに理解されることはあるのだろうか。私を応援してくれなくてもいい。でもたった一人でもいいから、私は悪くないと言ってほしかった。
 でもその言葉は、決して父と母からは聞けない言葉でもあった。
  …*…*…
 その時ドアが、ゴンゴンと叩かれた。何事だと思いつつ、がらりと扉を開けると、そこには笑顔の母がいた。どうもこの存在感に馴染めない自分がいる。
「道子、私散歩に行こうかしら」
「散歩?」
「久しぶりにこの町を歩いてみたいの」
「……。あのね、お母さん」
「はい」
「お母さんは、死んでいるの」
「その通りよ」
「ならちょっと考えれば分かるでしょ。死人が街をうろうろ歩いていたら、大騒ぎになるってこと」
「そうねえ。そうかもしれないけれど、でも外へ行ってみたいのよ」
「分かった。ちょっと待ってて。それから私も一緒に行くから」
「まあ、道子と散歩なんて、久々ね」
 呑気な母を無視して、私は部屋へ戻った。それから巨大なストール、グラスの色の濃いサングラス、女優帽のようなつばの広い帽子をかき集めて持ってくると、それで必死に母を隠し始めた。
 仕上がりは正直、多少怪しさが漂っていたが、隣で私が歩いていたら、怪しまれても、人に声をかけられても、弁解ができるだろう。
「行こうか」
 そういう私に頷いて、母は後からついてきた。
 
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