明かり

桃青

文字の大きさ
上 下
14 / 14

ラスト.

しおりを挟む
◇side:タロ

「タロくん、ありがとうございました。
 そろそろあがってください」

昼ご飯を食べて戻ってきた宮司さんが、授与所に座っていた僕に声をかけた。

「あ、はい。
 けど、今日は学さんが歯医者さんに行ってて帰りにこちらに寄ってくれるので、それまでここで待たせてもらってもいいですか?
 前にクラフトマーケットで絵を買ってくれた歯医者さんで、神社のすぐ近くらしいので」
「それは構いませんが……こんなお昼どきに歯医者やっているんですか?」
「あ、いえ。
 ほんとは午前中の予約だったんですけど、歯医者さんから電話があって、予約のミスで他の人と時間が重なってしまったので時間をずらしてもらえないかって言われて、それでお昼になったらしいです」

僕が事情を説明すると、宮司さんはちょっと難しい顔になった。

「歯医者って、もしかして北側の通りのビルの2階に入っているところですか?」
「はい、神社のちょっと北って言ってましたから、たぶんそうだと思いますけど、それがどうかしたんですか?」
「それが実はですね。
 たぶんなのですが、あそこの歯医者さんも男性を好きになる方ではないかと思うのですよ。
 松下さんと似たタイプの若くてがっしりした体つきのかっこいい男性と一緒に歩いているところを、何回か見かけたことがあるので、もしかしたら松下さんのこともデートにでも誘うつもりなのではないかと、少し気になってしまいまして。
 今日は木曜日ですから、歯医者は午後から休診というところも多いでしょうし」
「えっ! そんなの困ります!」

宮司さんの話を聞いた僕は慌てて立ち上がった。

「すいません、お先に失礼します!」
「あ、その歯医者、神社の裏から通りに出て右にちょっと行ったところですから」
「はい、ありがとうございます!」

そうして僕は荷物を持つと仕事着の作務衣を脱ぎつつ北へと走った。

————————————————

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

そこは、私の世界でした

桃青
ライト文芸
平凡な毎日を送っていたはずの、林波。だが、ある日頭が混乱し、それをきっかけに、夢の中で自分の世界の再構築を始める、aoという謎の男性と共に。自分の世界というワンダーランドで、自助をしていく物語です。ファンタジーだけど、現実に根付いた、純文学のつもりです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...