明かり

桃青

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 神秘的で、それでいてどこか落ち着いた感じの色合いをした電車は、(それはノスタルジーを感じる、と言った方がいいのかもしれません)古風な電車らしい音をけたたましく立てながら、私の目の前で停車しました。そしてその後に、まるで鐘楼の鐘を鳴らすような、わんわんと響く声のようなものが、(しかしそれが何を言っているのかは、さっぱり聞き取れません)ホーム中に轟きわたり・・・。

 私は美しく青く燐光を放つ電車を見て、
「きれい・・・。」
 と呟いてから、どこか感動に似た気持ちでしばらく電車に見とれていました。すると、次の瞬間。

 ガタッ。

 と大きな音を立てて、電車の扉が開きました。私がびっくりしていると、いつしか私の背後に立っていた正紀は、私に耳打ちしました。
「・・・君は、この電車に乗るんだ。」
「えっ?」
 そして彼は、私の背中をぐいっと押して、電車の中へ押し込んだのです。
 私はよろめきながら電車に乗り込み、一方正紀はホームに立ったままでした。
 私は彼の方を振り返って、彼の行動の意味が呑み込めないまま、慌てて訊ねました。
「正紀は、・・・正紀はどうするの?電車に乗らないの?」
 すると彼はじっと私を、物言いたげな目で見つめてから、落ち着いた様子で言いました。
「僕は電車には乗らない。
 ・・・これから僕は、僕の道を行く。
そして・・・。
 君は、君の道を行くんだ。」
「・・・どういう事?それってどういう意味なの、正紀!」
 私は訳が分からず、彼に向かってそう叫ぶと、正紀は素早く私の手を取り、ぎゅっと握りしめると、小さな声で言いました。

「さよなら。」
 
 そして正紀が手を振りほどいたその瞬間。
 電車の扉は閉ざされたのでした。

 私は電車のドアの窓に張り付いて外を眺め、正紀の姿を確かめました。すると彼はドアの向こう側で、優しさを秘めた深い眼差しで、じっと私の事を見ていました。

「正紀!」

 私はあらん限りの声で叫びました。でも電車はいつしか滑るように動き始め、そのせいでホームに立つ彼の姿は、飛ぶように後ろの方へと流れて消えていって・・・。
 
 そう、私と正紀はこうして、離れ離れになったのでした。
 … … …
 私はショックのあまり呆然として、やっとのことで長椅子に腰掛けました。そしてどうにか気を落ち着けて、改めて車内を見渡してみると、私の他に乗客がいる気配はなく、時々まるで灯台の光のように、チラチラと窓から差し込む明かりで、列車の中は明るくなったり暗くなったりしていました。

 そんな光景を見るともなく見て、私はしばらくぼうっとしていましたが、やがて、
「正紀・・・。」
 と呟くと、堪えきれずにポロポロと涙を零し始めました。

 今になって、改めてこう思う。
 正紀、私はもっと、あなたと話したい事があったの。そしてもっともっと・・・、
 あなたと一緒にいたかった。

 ―どうして?
 どうして私達は別れなければいけなかったの?

 彼の温もり。・・・私の手をそっと握る、正紀の手。そして最後まで私に向けられた、彼の優しい思い。
 ・・・それはまるで、ずっと彼に包まれていたかのような、幸せな記憶だった。

 そして彼から私に向けられた、最後の言葉。

 『サヨナラ。』
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