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吹雪は相変わらず猛烈でしたが、そうやって正紀と共に歩み始めてみると、私は正紀の体からじかに感じられる温もり、そして彼の心の温もりさえ、感じる事ができるのでした。
この、愛おしい温かさ。
今、物凄く寒いことには変わりはないけれど、でもこの温もりを、ずっと感じ続ける事ができるのなら・・・。
怖いものは何もない。私はどこまでも前へ進んでいける気がするのでした。
私は叫びました。
「正紀!」
「何?」
正紀も叫び返しました。
「人といるって、・・・温かい事だね!
正紀とこうしていると、何だか私、心の片隅までもが、だんだん温かくなってくる!」
「そうか!実は今、僕も同じことを考えていた!」
「そうなの?
これって、・・・もしかして、シンクロニシティ―?」
「そうかもな!」
私達はそうやって叫び合い、心を分かち合うと、何だかガッツが湧いてきて、再び前に向かって進み始めたのでした。
それにしても・・・。
本当になぜ、私達はこんなにしてまで、前に向かって歩き続けているのでしょう?
そして・・・。
私達が行くべき場所とは一体・・・?
… … …
それからは、あまりにも酷い悪天候のせいで、私達は正直会話どころではなくなりました。そして前に進むことだけを考え、ただただ道を黙々と歩いていた時・・・。
一体どれくらいの時が流れたのでしょう?正紀が私を呼ぶ声で、私はやっと我に返りました。
「純子。・・・純子。」
「―あっ、はい。何?正紀。」
「前を見てごらん。」
そう唆され、言われるままに前を見てみると・・・。
「あっ。」
私は小さな叫び声を上げました。私達の行く先には、白い光でライトアップされた、青い屋根のちんまりとした建物が、ひっそりと建っているのでした。私は喜びに満たされて、思わず叫びました。
「良かった!これで吹雪がしのげるね!」
「そうだね。もうすぐ辿り着くよ。」
「正紀!」
「何?」
「・・・もしかしてあそこが、・・・私達の目的地なの?」
私がそう彼に問うと、正紀は急に押し黙りました。そんな彼の態度に私は不安になって、
彼に問い詰めました。
「あそこで・・・、何かがあるの?
正紀、私達ずっと・・・、一緒だよね?いつまでも2人で、こうしていようよ。
2人でこの先もこんな風に、道を歩んでいって・・・。」
でも正紀にはまるで、そんな私の言葉など耳に届かないみたいでした。いつしかその建物の前に立っていた私達は、2人してその愛らしい姿をしばし見上げていましたが、正紀はそっと、自分のコートの中から私を外へ押し出すと、再び私の手を握って、
「さあ、この建物に入ってみようか。」
と言い、先頭に立って私を建物の中へ導き、歩き始めたのでした。
でもその時私の心は何故か、正体の見えない不安に駆られていたのでした。
… … …
まるで西洋のおとぎ話から抜け出てきたような、その建物の中に入ってみると、入り口にドアはなく、吹き抜けになっていて、そこには・・・。
人の誰もいない、開放的な造りの改札になっていました。
そうです、この建物の正体は、実は駅だったのです。
改札を抜けて中に入った私と正紀は、ホームに出て、それぞれに駅の様子を眺めていました。
私はホームを行ったり来たりしたり、あちこちを眺めて、しばしこの無人駅を観察していました。
その駅は木造でしたが、どうやらしっかりとした作りらしく、完全に外の吹雪をシャットアウトしていました。そして天井には、白い白熱灯が一列に煌々と灯り、外の暗闇が忍び込んでくるのを完全に防いでいました。
駅の構内は、時刻表もなく、広告のポスターもなく、何の特色もない、のっぺりとした印象でした。仮に後日思い出そうとしても、どうやっても思い出す事ができないような・・・。
存在感の薄い光景の駅なのです。
とりあえず吹雪地獄から解放された私は、そうやってホームをぶらぶらした後、やっとホッと一息ついて、ホームにすっと立っている正紀の元へと歩いていきました。そして彼の隣に立って、声を掛けました。
「正紀、吹雪をしのげる場所が見つかって良かったね。」
「ウン。」
正紀は簡単に返事をしました。
「この駅・・・。電車は走っているのかな?見た所どうやら、誰も人はいないみたいだけれど・・・?」
「―純子。君には聞こえない?」
「えっ、何が?」
「耳を澄ましてごらん。」
正紀にそう言われて、私は物音に集中してみると・・・。
なるほど、確かに何か・・・。
汽笛のような音と、がっしゃんがっしゃんという、騒がしいノイズがだんだん聞こえてきました。
「本当だ、聞こえる。・・・これってもしかして、電車の音?」
私はそう言って、ホームから身を乗り出して、線路の先を見てみるとそこには―。
青く光り輝く電車が走っていて、今まさにこの駅のホームへ、滑り込もうとしている所だったのでした!
この、愛おしい温かさ。
今、物凄く寒いことには変わりはないけれど、でもこの温もりを、ずっと感じ続ける事ができるのなら・・・。
怖いものは何もない。私はどこまでも前へ進んでいける気がするのでした。
私は叫びました。
「正紀!」
「何?」
正紀も叫び返しました。
「人といるって、・・・温かい事だね!
正紀とこうしていると、何だか私、心の片隅までもが、だんだん温かくなってくる!」
「そうか!実は今、僕も同じことを考えていた!」
「そうなの?
これって、・・・もしかして、シンクロニシティ―?」
「そうかもな!」
私達はそうやって叫び合い、心を分かち合うと、何だかガッツが湧いてきて、再び前に向かって進み始めたのでした。
それにしても・・・。
本当になぜ、私達はこんなにしてまで、前に向かって歩き続けているのでしょう?
そして・・・。
私達が行くべき場所とは一体・・・?
… … …
それからは、あまりにも酷い悪天候のせいで、私達は正直会話どころではなくなりました。そして前に進むことだけを考え、ただただ道を黙々と歩いていた時・・・。
一体どれくらいの時が流れたのでしょう?正紀が私を呼ぶ声で、私はやっと我に返りました。
「純子。・・・純子。」
「―あっ、はい。何?正紀。」
「前を見てごらん。」
そう唆され、言われるままに前を見てみると・・・。
「あっ。」
私は小さな叫び声を上げました。私達の行く先には、白い光でライトアップされた、青い屋根のちんまりとした建物が、ひっそりと建っているのでした。私は喜びに満たされて、思わず叫びました。
「良かった!これで吹雪がしのげるね!」
「そうだね。もうすぐ辿り着くよ。」
「正紀!」
「何?」
「・・・もしかしてあそこが、・・・私達の目的地なの?」
私がそう彼に問うと、正紀は急に押し黙りました。そんな彼の態度に私は不安になって、
彼に問い詰めました。
「あそこで・・・、何かがあるの?
正紀、私達ずっと・・・、一緒だよね?いつまでも2人で、こうしていようよ。
2人でこの先もこんな風に、道を歩んでいって・・・。」
でも正紀にはまるで、そんな私の言葉など耳に届かないみたいでした。いつしかその建物の前に立っていた私達は、2人してその愛らしい姿をしばし見上げていましたが、正紀はそっと、自分のコートの中から私を外へ押し出すと、再び私の手を握って、
「さあ、この建物に入ってみようか。」
と言い、先頭に立って私を建物の中へ導き、歩き始めたのでした。
でもその時私の心は何故か、正体の見えない不安に駆られていたのでした。
… … …
まるで西洋のおとぎ話から抜け出てきたような、その建物の中に入ってみると、入り口にドアはなく、吹き抜けになっていて、そこには・・・。
人の誰もいない、開放的な造りの改札になっていました。
そうです、この建物の正体は、実は駅だったのです。
改札を抜けて中に入った私と正紀は、ホームに出て、それぞれに駅の様子を眺めていました。
私はホームを行ったり来たりしたり、あちこちを眺めて、しばしこの無人駅を観察していました。
その駅は木造でしたが、どうやらしっかりとした作りらしく、完全に外の吹雪をシャットアウトしていました。そして天井には、白い白熱灯が一列に煌々と灯り、外の暗闇が忍び込んでくるのを完全に防いでいました。
駅の構内は、時刻表もなく、広告のポスターもなく、何の特色もない、のっぺりとした印象でした。仮に後日思い出そうとしても、どうやっても思い出す事ができないような・・・。
存在感の薄い光景の駅なのです。
とりあえず吹雪地獄から解放された私は、そうやってホームをぶらぶらした後、やっとホッと一息ついて、ホームにすっと立っている正紀の元へと歩いていきました。そして彼の隣に立って、声を掛けました。
「正紀、吹雪をしのげる場所が見つかって良かったね。」
「ウン。」
正紀は簡単に返事をしました。
「この駅・・・。電車は走っているのかな?見た所どうやら、誰も人はいないみたいだけれど・・・?」
「―純子。君には聞こえない?」
「えっ、何が?」
「耳を澄ましてごらん。」
正紀にそう言われて、私は物音に集中してみると・・・。
なるほど、確かに何か・・・。
汽笛のような音と、がっしゃんがっしゃんという、騒がしいノイズがだんだん聞こえてきました。
「本当だ、聞こえる。・・・これってもしかして、電車の音?」
私はそう言って、ホームから身を乗り出して、線路の先を見てみるとそこには―。
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