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喜びのエモーション。
それは確かに素晴らしいものです。喜びは人を幸せにします。
―でもそれは決して誰かから、与えられる事を期待するものではないのではないだろうか?
喜びとは人と分かち合った時に、初めて沸き起こる感情です。
・・・そのために私ができる事は、喜びがやって来るのを待つことではない。
むしろ自ら人々に働きかけていって、喜びを他者と共感できるように心掛け、その思いを共に分かち合い、さらに社会とリンクしていく事で、最終的に喜びの輪が、まるで波動のように世界へと広がっていく・・・。
そうする事で、初めて本物の『喜び』が私にもたらされるのであり、それこそが最終的な『喜び』の、理想の姿ではないのかと、・・・私はそう思うのです。
悪魔の理論は間違っている。
・・・その時私は、閃きました。
いつしかそんな事を考えていた私は、正紀の腕を引っ張って言いました。
「正紀、行きましょう。」
すると正紀も頷いて、私達は再び白い道を踏みしめ、歩き始めました。
私達の周囲に押し寄せていた妖怪たちは、私達が先へ進もうとすると、キョトンとした顔で私達を見つめながら、それでも少しずつ体を動かして、道を空けてくれました。けれども、
「ブウ。」
「何だい。」
「バカだね!」
「我らと共に!」
と奇声を上げては、口々に私達に文句をつけるのを忘れませんでした。でも私と正紀はそれを無視して、ひたすら前に向かって歩き続けました。
… … …
気がつくと妖怪の群れから抜け出した私と正紀は、すっかり静けさを取り戻した白い道を歩いていました。私は気になって、自分の背後を振り返ってみると、異形のものたちの集まりは、もはや黒い点となって、彼らの歓声もすっかり耳に届かなくなっていました。
そして私はふうと息を吐いて、再び前に進もうとしたその時。
私と正紀の周りに、まるで魔法で出来た光の玉のようなものが突然、次々と流れ始めました。
その光の玉ひとつひとつに、今まで私が人生で経験してきた『感情』が詰まっていて、それが私の体に触れるたび、その感情が呼び起されて、私に様々な種類の『感動』を、呼び覚ましていくのです。
私はただひたすら目を閉じ、私の内に沸き起こる心の疼きに身を委ねていました。
温かいもの、冷たいもの。
明るいもの、暗いもの。
辛い気持ちや、苦しい気持ち。楽しみや、悲しみ。
そして人に何よりも大きなものをもたらす、
『喜び』のエモーションの輝きが、最後に私の元へとやってきて・・・。
(私の人生には、これだけの色々な『思い』があった。そしてこれからの私の未来は・・・?)
私は心の中でそんな事を思いながら、感情の大きな波から自分を取り戻して、ゆっくりと目を開けると、
「純子。」
と正紀が私に囁きかける声が聞こえました。
私はゆっくりと声のする方を振り向くと、彼は優しい笑みを浮かべて、私の様子を窺っていました。
私はまず、今ではすっかり元通りの、黒い闇が広がる空を見上げて、(そう、光の玉はいつしか姿を消していました)現実的な感覚を取り戻してから、やっと我に返って、
「何?」
と正紀に問い掛けました。彼は真っ直ぐ自分を見つめている私に向かって、まるで私を導くかのように、こう言いました。
「きっと未来は・・・、決して最初からできているものではなく、自分で作っていくものなんだよ。
誰かに与えられるものじゃない。もちろん悪魔からもね。
だからこそ、そこに喜びがあり、様々な感動もある。」
「うん。きっとそうだね。」
私は笑顔になって、正紀にそう答えました―。
それは確かに素晴らしいものです。喜びは人を幸せにします。
―でもそれは決して誰かから、与えられる事を期待するものではないのではないだろうか?
喜びとは人と分かち合った時に、初めて沸き起こる感情です。
・・・そのために私ができる事は、喜びがやって来るのを待つことではない。
むしろ自ら人々に働きかけていって、喜びを他者と共感できるように心掛け、その思いを共に分かち合い、さらに社会とリンクしていく事で、最終的に喜びの輪が、まるで波動のように世界へと広がっていく・・・。
そうする事で、初めて本物の『喜び』が私にもたらされるのであり、それこそが最終的な『喜び』の、理想の姿ではないのかと、・・・私はそう思うのです。
悪魔の理論は間違っている。
・・・その時私は、閃きました。
いつしかそんな事を考えていた私は、正紀の腕を引っ張って言いました。
「正紀、行きましょう。」
すると正紀も頷いて、私達は再び白い道を踏みしめ、歩き始めました。
私達の周囲に押し寄せていた妖怪たちは、私達が先へ進もうとすると、キョトンとした顔で私達を見つめながら、それでも少しずつ体を動かして、道を空けてくれました。けれども、
「ブウ。」
「何だい。」
「バカだね!」
「我らと共に!」
と奇声を上げては、口々に私達に文句をつけるのを忘れませんでした。でも私と正紀はそれを無視して、ひたすら前に向かって歩き続けました。
… … …
気がつくと妖怪の群れから抜け出した私と正紀は、すっかり静けさを取り戻した白い道を歩いていました。私は気になって、自分の背後を振り返ってみると、異形のものたちの集まりは、もはや黒い点となって、彼らの歓声もすっかり耳に届かなくなっていました。
そして私はふうと息を吐いて、再び前に進もうとしたその時。
私と正紀の周りに、まるで魔法で出来た光の玉のようなものが突然、次々と流れ始めました。
その光の玉ひとつひとつに、今まで私が人生で経験してきた『感情』が詰まっていて、それが私の体に触れるたび、その感情が呼び起されて、私に様々な種類の『感動』を、呼び覚ましていくのです。
私はただひたすら目を閉じ、私の内に沸き起こる心の疼きに身を委ねていました。
温かいもの、冷たいもの。
明るいもの、暗いもの。
辛い気持ちや、苦しい気持ち。楽しみや、悲しみ。
そして人に何よりも大きなものをもたらす、
『喜び』のエモーションの輝きが、最後に私の元へとやってきて・・・。
(私の人生には、これだけの色々な『思い』があった。そしてこれからの私の未来は・・・?)
私は心の中でそんな事を思いながら、感情の大きな波から自分を取り戻して、ゆっくりと目を開けると、
「純子。」
と正紀が私に囁きかける声が聞こえました。
私はゆっくりと声のする方を振り向くと、彼は優しい笑みを浮かべて、私の様子を窺っていました。
私はまず、今ではすっかり元通りの、黒い闇が広がる空を見上げて、(そう、光の玉はいつしか姿を消していました)現実的な感覚を取り戻してから、やっと我に返って、
「何?」
と正紀に問い掛けました。彼は真っ直ぐ自分を見つめている私に向かって、まるで私を導くかのように、こう言いました。
「きっと未来は・・・、決して最初からできているものではなく、自分で作っていくものなんだよ。
誰かに与えられるものじゃない。もちろん悪魔からもね。
だからこそ、そこに喜びがあり、様々な感動もある。」
「うん。きっとそうだね。」
私は笑顔になって、正紀にそう答えました―。
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