明かり

桃青

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 それは妖怪たちが、何か悪さを企むために集まった、悪意に満ちた集い・・・、という怪しげな感じではなく、まるで真夏に開催される夏祭りのようにカラッとした雰囲気で、皆大変にテンションが高く、とても楽しげな様子で盛り上がっているのでした。
「これって、・・・妖怪のお祭り?」
 私は隣で目を見開いて立ちつくしている正紀に、そう耳打ちすると、
「よく分からないけれど・・・、まあ、そんな所なんじゃないか?」
 と彼は横目で私を見て、私に囁き返しました。

 角を生やした赤鬼がいたり、とんがり帽子を被った小人がいたり、まるでスフィンクスのように羽を生やした、動物なのか天使なのかよく分からない何かがいたり、とにかくひたすら醜い、不気味な存在感を放つものがいたり・・・。
 それらが手を繋いだり、肩を寄せ合ったりしながら、大声でお喋りをし合ったり、(もうそれは『騒音』と言ってもいいほどでした)歌らしきものを歌ったり、突然ヒー――と、意味もなく絶叫したりしているのです。

 どこからやってきたのか、国籍も分からない異形の者たちが、そんな事はお構いなく、皆揃いにも揃って仲良く楽しんでいる光景は、微笑ましいと・・・、言えない事もないのですが・・・。
 
でも彼らの姿形のせいで、やっぱり不気味なものは不気味に違いありませんでした。

 私と正紀は自然にギュッと固く手を握り合い、そのまま騒いでいる妖怪たちの間を通り抜けていこうとしました。そうです、正直こんな訳の分からないものたちと、関わり合いなんて持ちたくありません。

 でも、その時。

「お嬢さん。」

 誰かに声を掛けられて、私達は思わず足を止めました。すると・・・。
 私の目の前に突然姿を現した、黒のタキシードを決め込んだ人間らしきものが、深々と私に向かってお辞儀をしていたのです。
 … … …
 その人間らしきものは、下げていた頭をゆっくりと起こし、私に向かって微笑みかけました。彼はぎょっとするほど美しい青年の顔立ちをしており、頭にはねじくれた2本の角を生やし、まるで猫の尻尾のように器用に動く、黒くて長い鞭のようなものを、お尻から生やしていました。

 私はそんな風にじっくりと彼を観察した後、ふと浮かびあがった私の疑問に対する答えを聞きたくて、彼にこう問い掛けたのです。
「あなたは・・・。もしかすると、“悪魔”ですか?」
「そうですね。人間の世界では私の事をそう呼ぶ輩もいます。」
 そう言って悪魔はニッコリと笑いました。そして揉み手をしながら段々と私に近づいてきて、
「これからは、私と一緒に行きましょう。」
 と、何やら不気味な事を言うのです。私の心の中では疑惑が高まり、不審な気持ちになって、思わず悪魔から一歩身を引いてから、
「どこへ?」
 と問うと、彼は、
「未来へ、です。」
 と確信に満ちた様子で言い、次の瞬間強引に私の手を取ろうとしました。でも瞬時に、正紀は私と悪魔の間にすっと立ちはだかり、私を悪魔の手から守ろうとしました。そしてとても冷たい目で、悪魔の事を静かに見つめ返しました。

 でも悪魔はそんな事はお構いなしに、正紀という壁の存在を無視して、一方的に私に向かって喋り続けるのです。
「あなたには悩みがあるでしょう。そして不安な事も、辛い事もあるでしょう。
 ―人生とは計り知れない苦悩で満ち満ちているのです。
・・・ああ、なんという悲哀!

 ですが、そんな人生とはおさらば!しませんか?
 私はどこまでも永遠に続く、輝ける素晴らしい未来へと・・・、あなたをお連れしますよ。」
 
 気がつくと私と正紀の周りには、数え切れないほどの妖怪たちが集まっていて、私達を取り囲んでいました。そしてその全てが、じっと私達を見つめているのです。
 すると突然、目の前にいる小人が叫び出しました。
「そうだっ!」
 すると周りの妖怪たちが一斉に合唱しました。
「その通りだ!」
 私達は身動きが取れないまま、呆然と立ち尽くしていると、妖怪達が口々に叫び始めました。
「不安!」
「平凡!」
「不幸!」
「つまらないこと!」
「バイバイだね!」
「さよなら!」
 そして今度は皆で一斉に声を揃えて言いました。
「我らと共に!」
 悪魔は冷たい笑みを浮かべて、その叫び声に耳を傾けていましたが、再び私に向き直ると、こう訊ねました。
「どうです?我らと共に、喜びの世界へ。」
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