明かり

桃青

文字の大きさ
上 下
4 / 14

4.

しおりを挟む
「夢だったんだ。」
 ベッドから体を起こした私は、しばらく呆然とした後、ぽそりとそう呟きました。

 それにしても、リアリティのある夢でした。夢のくせに、さっきまで私が見ていたイメージは、まるで実体験のように根深く、私の頭の中に焼き付いていたのでした。

 黒い闇。凍えるほどの寒さと、冷える手足。
 舞い落ちる雪の中で、私の行先を指し示すように灯る街灯と、幻として現れたユキヒョウ。

 ・・・それに、何故かいつも側にいてくれる、正紀の存在。

 私は、夢の中にまで正紀が出てきて、そっと私を見守っていてくれたことを、歯痒いように心地良く感じ、嬉しく思いました。
 ・・・何故なら、夢に登場するほど私達の結び付きは深いのだと、改めて再確認できたような気が、私にはしたのです。
 
 私は彼が、夢の中で言った言葉を、頭の中で繰り返しました。
「大丈夫、何も怖れる事はない・・・か。」

 恐れるというのは、確かに彼の言った通り、実体のないものを怖がる、ということではないでしょうか?

 分からないから不安で、分からないから怖く感じる。

 ・・・そしてきっと、それは幻を恐れる事と、何かが似ているのです。まるで私が、夢の中で幻影であるユキヒョウを恐れたように・・・。
 正紀はその事を、私に教えてくれたのでした。

 私は何だか温かい気持ちになって、思わず笑みを浮かべると、
(面白い夢だったな。)
 と心の中で呟きました。そしてふと我に返り、時間を確認すると、もうすっかり朝になっていたのでした。
私は夢の世界を頭から振り払うと、ベッドから起き出し、朝食の準備をするために台所へ向かいました。
 ☆☆☆
 私と正紀は、今度一緒に行こうとしている週末デートの行先について、それはまめに電話で話し合っては、計画を固めていきました。
 ある日の電話で私はこう言いました。
「ねえ、正紀。私、今度のデートで動物園に行きたいな。」
「え、動物園?なんで?何か理由でもあるの?」
「ウフフ、今はまだ秘密。デートで実際に正紀と会ってから、この話をするよ。」
「それって・・・、いい話?」
「うん。きっといい話。そして面白い話でもあるわ。」
「そうか。それは楽しみだな。よし、・・・じゃあ、デートの行先は動物園で決まりだ。」
「やった。」
 そしてそうやって話が纏まりを見せた後、私達は待ち合わせ場所と時間の確認をして、爽やかな気持ちで電話を切ったのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...