38 / 40
37.
しおりを挟む
☆☆☆
ショッピングモールの外に出ると、霧雨が降っていた。私は仕事場に傘を置き忘れてきたことを思い出したが、高山さんがどこからともなく、巨大な傘を取り出し、中に入れてくれた。二人でアイアイ傘をして、外を歩き出すと、高山さんは言う。
「どこか行きたいお店とか、ある? 」
「行きたくないお店ならあります。胃もたれしそうなので、中華は食べたくない」
「なら、お寿司とかは? 回転寿司」
「わあ。大賛成」
「よし。俺について来て」
「はい」
身を寄せ合って、石の話なんかをしている内に、派手な光を放つ大きな看板を掲げた、回転寿司屋に着いていた。店内に入っていくと、遅い時刻だが、それなりにお客がいる。一人でお酒を飲んで出来上がっている人、カップルやグループできている人々……。私達は隅のテーブルへ案内され、腰を落ち着けて、微かに微笑みあった。高山さんは率先してタッチパネルを操作しながら、言った。
「こずえさんは何を頼みたい? 」
「ハマチ! ハマチはマストです。あと、いくら、ホタテ、鯵と甘えびを、お願いします」
「かしこまりました。俺も注文をして―」
「なんか明るくて、温かい雰囲気の良いお店ですねえ」
「うん。数回しか来たことないけれど、お寿司も安くておいしいよ」
「で。高山さんの話とは」
私がそう問うと、彼はお茶を作りながら言った。
「今すぐに、じゃないけれど、俺、遠からず天然石のお店を辞めるわ」
「ええ。えっ。ええっ?! どうしてですか? 」
「友達から仕事を手伝ってほしいと頼まれたの。それがずっと、俺のやりたかった仕事だった」
「つまり、その仕事へ転職……」
「そういうこと。彼が準備をしている段階なんで、今すぐってことにはならないけれど、多分今年中には」
「ううう。私、高山さんがいない環境で働くのは、寂しいし、自信がないです……」
「俺の代わりに新しい店員が入るよ。それに俺は、こずえさんと別れるつもりもないから。こずえさんは高校を出た後、何をするか決まった? 」
そう言いながら、届いたお寿司の皿を次々と私の前へ並べていく高山さんの手を見つつ、私は言った。
「はい。あの天然石のお店で、働き続けようと思っています。できたら、時間を増やして」
「ふむ。将来的に、あの店の社員になるつもりとか」
「そこまでは決めていないけれど、ただ、私ってシンプルに、石が好きなんですよね。天然石を見ているだけで、幸せな気持ちになります。だからずっと、石に関わる仕事ができたらいいなって。石について勉強していく気持ちもあるし」
「そうか。俺としてはこずえさんの将来が楽しみ」
「そうですか? 今、褒められていますか? 」
「褒めているというか、当て所のない気持ちでフリーターをやっているわけじゃないと分かって、すっきりしたんだ」
「今は天然石と関わっていますけれど、広い定義なら、ジュエリーも天然石ですよね」
「うん。そうだね」
「ジュエリーについても、詳しくなりたい気持ちがあります」
「宝石かあ。でも宝石って単価が高いし、ファッション性も強いから、石と関わりたいという気持ちが強いなら、まずは天然石から入った方が、身近でいい気がするな、俺は」
「そうか。石について考えるだけで、楽しくなってきますね」
そう言いながら、ハマチを口に運んだ私は、ジーンとその美味しさに浸った。私は今、ダイレクトな幸せに浸っている。それからふっと間美のことを思い出して、言った。
「間美は、大学へ行かないかもしれないです」
「かもね。彼女がそう言っていたの? 」
「うん、そう。多分、広い意味で先が見えていないのだと思う」
「……。未来が分かる人はいない気がするけどな。それは何でかっていうと、その時はこっちの未来と繋がっていても、何かの原因で、あっちの未来と繋がったりする。そんな常に変動するものを、見定めることはできないと思うんだ」
「恐竜だって、生きていたかもしれない」
「恐竜人間が、今の地球の覇者だった可能性もあるはず、ネズミ人間じゃなくてさ」
ショッピングモールの外に出ると、霧雨が降っていた。私は仕事場に傘を置き忘れてきたことを思い出したが、高山さんがどこからともなく、巨大な傘を取り出し、中に入れてくれた。二人でアイアイ傘をして、外を歩き出すと、高山さんは言う。
「どこか行きたいお店とか、ある? 」
「行きたくないお店ならあります。胃もたれしそうなので、中華は食べたくない」
「なら、お寿司とかは? 回転寿司」
「わあ。大賛成」
「よし。俺について来て」
「はい」
身を寄せ合って、石の話なんかをしている内に、派手な光を放つ大きな看板を掲げた、回転寿司屋に着いていた。店内に入っていくと、遅い時刻だが、それなりにお客がいる。一人でお酒を飲んで出来上がっている人、カップルやグループできている人々……。私達は隅のテーブルへ案内され、腰を落ち着けて、微かに微笑みあった。高山さんは率先してタッチパネルを操作しながら、言った。
「こずえさんは何を頼みたい? 」
「ハマチ! ハマチはマストです。あと、いくら、ホタテ、鯵と甘えびを、お願いします」
「かしこまりました。俺も注文をして―」
「なんか明るくて、温かい雰囲気の良いお店ですねえ」
「うん。数回しか来たことないけれど、お寿司も安くておいしいよ」
「で。高山さんの話とは」
私がそう問うと、彼はお茶を作りながら言った。
「今すぐに、じゃないけれど、俺、遠からず天然石のお店を辞めるわ」
「ええ。えっ。ええっ?! どうしてですか? 」
「友達から仕事を手伝ってほしいと頼まれたの。それがずっと、俺のやりたかった仕事だった」
「つまり、その仕事へ転職……」
「そういうこと。彼が準備をしている段階なんで、今すぐってことにはならないけれど、多分今年中には」
「ううう。私、高山さんがいない環境で働くのは、寂しいし、自信がないです……」
「俺の代わりに新しい店員が入るよ。それに俺は、こずえさんと別れるつもりもないから。こずえさんは高校を出た後、何をするか決まった? 」
そう言いながら、届いたお寿司の皿を次々と私の前へ並べていく高山さんの手を見つつ、私は言った。
「はい。あの天然石のお店で、働き続けようと思っています。できたら、時間を増やして」
「ふむ。将来的に、あの店の社員になるつもりとか」
「そこまでは決めていないけれど、ただ、私ってシンプルに、石が好きなんですよね。天然石を見ているだけで、幸せな気持ちになります。だからずっと、石に関わる仕事ができたらいいなって。石について勉強していく気持ちもあるし」
「そうか。俺としてはこずえさんの将来が楽しみ」
「そうですか? 今、褒められていますか? 」
「褒めているというか、当て所のない気持ちでフリーターをやっているわけじゃないと分かって、すっきりしたんだ」
「今は天然石と関わっていますけれど、広い定義なら、ジュエリーも天然石ですよね」
「うん。そうだね」
「ジュエリーについても、詳しくなりたい気持ちがあります」
「宝石かあ。でも宝石って単価が高いし、ファッション性も強いから、石と関わりたいという気持ちが強いなら、まずは天然石から入った方が、身近でいい気がするな、俺は」
「そうか。石について考えるだけで、楽しくなってきますね」
そう言いながら、ハマチを口に運んだ私は、ジーンとその美味しさに浸った。私は今、ダイレクトな幸せに浸っている。それからふっと間美のことを思い出して、言った。
「間美は、大学へ行かないかもしれないです」
「かもね。彼女がそう言っていたの? 」
「うん、そう。多分、広い意味で先が見えていないのだと思う」
「……。未来が分かる人はいない気がするけどな。それは何でかっていうと、その時はこっちの未来と繋がっていても、何かの原因で、あっちの未来と繋がったりする。そんな常に変動するものを、見定めることはできないと思うんだ」
「恐竜だって、生きていたかもしれない」
「恐竜人間が、今の地球の覇者だった可能性もあるはず、ネズミ人間じゃなくてさ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる