シャングリラ

桃青

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 ☆☆☆
 ショッピングモールの外に出ると、霧雨が降っていた。私は仕事場に傘を置き忘れてきたことを思い出したが、高山さんがどこからともなく、巨大な傘を取り出し、中に入れてくれた。二人でアイアイ傘をして、外を歩き出すと、高山さんは言う。
「どこか行きたいお店とか、ある? 」
「行きたくないお店ならあります。胃もたれしそうなので、中華は食べたくない」
「なら、お寿司とかは? 回転寿司」
「わあ。大賛成」
「よし。俺について来て」
「はい」
 身を寄せ合って、石の話なんかをしている内に、派手な光を放つ大きな看板を掲げた、回転寿司屋に着いていた。店内に入っていくと、遅い時刻だが、それなりにお客がいる。一人でお酒を飲んで出来上がっている人、カップルやグループできている人々……。私達は隅のテーブルへ案内され、腰を落ち着けて、微かに微笑みあった。高山さんは率先してタッチパネルを操作しながら、言った。
「こずえさんは何を頼みたい? 」
「ハマチ! ハマチはマストです。あと、いくら、ホタテ、鯵と甘えびを、お願いします」
「かしこまりました。俺も注文をして―」
「なんか明るくて、温かい雰囲気の良いお店ですねえ」
「うん。数回しか来たことないけれど、お寿司も安くておいしいよ」
「で。高山さんの話とは」
 私がそう問うと、彼はお茶を作りながら言った。
「今すぐに、じゃないけれど、俺、遠からず天然石のお店を辞めるわ」
「ええ。えっ。ええっ?! どうしてですか? 」
「友達から仕事を手伝ってほしいと頼まれたの。それがずっと、俺のやりたかった仕事だった」
「つまり、その仕事へ転職……」
「そういうこと。彼が準備をしている段階なんで、今すぐってことにはならないけれど、多分今年中には」
「ううう。私、高山さんがいない環境で働くのは、寂しいし、自信がないです……」
「俺の代わりに新しい店員が入るよ。それに俺は、こずえさんと別れるつもりもないから。こずえさんは高校を出た後、何をするか決まった? 」
 そう言いながら、届いたお寿司の皿を次々と私の前へ並べていく高山さんの手を見つつ、私は言った。
「はい。あの天然石のお店で、働き続けようと思っています。できたら、時間を増やして」
「ふむ。将来的に、あの店の社員になるつもりとか」
「そこまでは決めていないけれど、ただ、私ってシンプルに、石が好きなんですよね。天然石を見ているだけで、幸せな気持ちになります。だからずっと、石に関わる仕事ができたらいいなって。石について勉強していく気持ちもあるし」
「そうか。俺としてはこずえさんの将来が楽しみ」
「そうですか? 今、褒められていますか? 」
「褒めているというか、当て所のない気持ちでフリーターをやっているわけじゃないと分かって、すっきりしたんだ」
「今は天然石と関わっていますけれど、広い定義なら、ジュエリーも天然石ですよね」
「うん。そうだね」
「ジュエリーについても、詳しくなりたい気持ちがあります」
「宝石かあ。でも宝石って単価が高いし、ファッション性も強いから、石と関わりたいという気持ちが強いなら、まずは天然石から入った方が、身近でいい気がするな、俺は」
「そうか。石について考えるだけで、楽しくなってきますね」
 そう言いながら、ハマチを口に運んだ私は、ジーンとその美味しさに浸った。私は今、ダイレクトな幸せに浸っている。それからふっと間美のことを思い出して、言った。
「間美は、大学へ行かないかもしれないです」
「かもね。彼女がそう言っていたの? 」
「うん、そう。多分、広い意味で先が見えていないのだと思う」
「……。未来が分かる人はいない気がするけどな。それは何でかっていうと、その時はこっちの未来と繋がっていても、何かの原因で、あっちの未来と繋がったりする。そんな常に変動するものを、見定めることはできないと思うんだ」
「恐竜だって、生きていたかもしれない」
「恐竜人間が、今の地球の覇者だった可能性もあるはず、ネズミ人間じゃなくてさ」
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