シャングリラ

桃青

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 お客さんの相手をしていた高山さんの隣に立ち、買う商品が決まると、私がレジ打ちをして、お会計を済ませた。客の姿が店から消えた後、私は静かに言った。
「高山さん、ありがとうございます」
「うん? ……ストラップのこと? 」
「それももちろんありますが、間美が危ないことを教えてくれて」
「俺の言った通りだったんだ」
「ええ。さっきここにいた男子、みのるっていうのですけれど、彼が体当たりをして、止めてくれました」
「間に合ってよかったな。もし彼女が死んでしまったら、俺は後悔の渦に飲み込まれそうだった」
「それは私も同じです。間美がネガティブである限り、こういうことが起きる可能性はまだありますが」
「話は変わるけどさ。君達三人って、バランスがいいね」
「バランスがいい? 仲がいいということですか」
「そういう意味も含むけれど、一緒にいるだけで、十分メリットがある感じ」
「ふむ。そういう風に捉えたことはなかったです、今まで」
「離れてもまた、元のさやに戻るみたいなさ。縁が濃い~感じ」
「ふふ。確かに真美とは一旦離れたけど、そういう感じになっています」
「こずえさんは、今日ラストまでいるでしょう? 話があるんだ。だから、夕食を一緒に食べに行かない? 」
「それは……、私にとっていい話? それとも悪い話? 何だか胸がドキドキしてきましたが」
「どっちかな。でも俺達の別れ話なんかじゃないよ。間美さんのことも含めて、こずえさんも話したいこと、あるんじゃないかな」
「間美の問題について考えると、私まで迷宮入りしてしまいそう。それより、高山さんの話が気になりすぎです」
「ははは。ちなみに俺にとっては明るい話。いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」

 それから後は、普通の日常に戻った感じだった。接客をし、仕事をし、高山さんとたまにアイコンタクトを取る。疲れていると思っていなかったが、間美の出来事に対する緊張感が半端なく、その反動でボゲーとし、脱力した気分になった。そんな中、いつもと変わらぬ高山さんの安定感が眩しい。本当に私は彼の恋人でいいのかなという思いが、ふと頭をかすめていく。私の存在意義が、あるような、ないような……。彼にとって、私がいてもいなくても変わらない気がする。力がなくて、色々な意味でちっぽけな私。何だか、心がざわざわした。
 サクサクと仕事をこなしていく内に、終業時刻が来て、二人で分担して店じまいをし、高山さんの業務が終わるのを待って、店を出た。
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