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「間美!」
私は力の限り、大声で叫んだ。電車がすぐ側をすり抜けていき、みのるが線路に飛び込もうとした間美にタックルして、体を抑え込んでいるのが見え、私はへなへなと全身の力が抜けていくのを感じたが、どうにか間美の前まで行き、倒れている彼女の側に座り込んで、一言だけ呟いた。
「何をやっているの……」
間美と、間美の腕をつかんで離さないみのると、私は、しばらく無言のまま、互いの顔を見合っていた。息がどうにか落ち着くと、間美は私とみのるから目を逸らし、囁くような声で言った。
「止めないでほしかった」
「……止めないでほしかった? 」
思わず私が言葉を繰り返すと、間美は言った。
「こずえには分からないよ」
そう言われた途端、私の頭の中で、プツンと何かが切れた。私は一気にまくし立てた。
「ずっと、ずっと、間美に会えなくて寂しかったんだから。言いたいことも、説明したいこともあったし、何より間美の側にいたかった。私のことが大嫌いでも、憎んでいても構わないけれど、私は間美に、死んでほしくないの! 」
すると間美の目が、ざっくり人を切るように、鋭い光を放った。それから間美もまくしたて始めた。
「こずえは幸せでしょう、高山さんと付き合えて! でも私に幸せは来ないし、第一、幸せなんて分からない! 何をしても、抜け出したくても抜け出せない絶望しかない、今の私の気持ちなんて、能天気なこずえに、話したって、絶対に分かるものか! 」
「私は馬鹿だけど、これだけは分かってる。間美が、……間美が、大切なの! これからいっぱい、色々なことをいっぱい話したいと思っていたし、死んで会えなくなるなんて、絶対に嫌だ! 」
「なら、私をこの苦しさから救ってよ! 闇ではなく光を見せて! それができないのなら、……私を止めないで! 」
そう絶叫すると、間美は大声で泣き出した。彼女がそんなに乱れて、泣き叫ぶ所を、これまで見たことがなかったし、想像もできなかった。拒絶を覚悟で、私はそっと彼女の肩に手を置いたが、特に払いのけようともしない。私は静かに言った。
「今言ったことや、そういう思いを、これからはたくさん、私やみのるに話して聞かせてよ。高山さんが、間美が自殺するかもしれないって連絡をくれて、私達は間美を探し始めたの」
「……高山さんが? 」
「忘れていたでしょ。私も高山さんも、間美の敵ではなくって、仲間だってこと」
「二人が……、私の仲間? 」
間美の言葉にみのるはフッと笑って言った。
「俺も仲間に加えてよ」
私や高山さんやみのるが間美を助けたくても、力が及ばないことも一杯あるし、これから間美が絶対に自ら死なない、とは言えない。人生の扉を開いてゆくのは、間美の力でしかできない、彼女の人生の仕事だ。
そんな間美の側に、私達がいることを忘れないでほしい。
嫌がられようが、無視されようが、私は間美を見守っている。きっと、高山さんも、みのるも。それぞれの力が小さくても、絶対的なパワー。天使や神のような神々しい力でなくても―。いや、だからこそ、とても身近で大切なパワー。
何だか自然に涙が溢れてきた。どうしてそんな分かりきった、当たり前のことを信じてくれないの。私は泣きながら言った。
「間美が私のことを嫌いなら、……っく、側にいるのをやめる。友達をやめても、……っく、いいし。でも、間美を見守りたい気持ちに、変わりは、……っく、ないから。変えるつもりもない」
間美も泣きながら言った。
「高山さんと、っく、うまく、やってる? 」
「この間、初めてのデートをしたよ。神社へ行ったの。そこでお守りを買ってきた……、間美に」
「私に? 」
「そう。受験のお守り。見てみる? 」
「うん」
私はいつでも渡せるように、常に鞄に忍ばせていたお守りを、そっと取り出して間美に渡した。間美は何も言わずに、しばらく受け取ったお守りを眺めていたが、ぽそっと言った。
「大学……。実は行くの、今、迷っているの」
「どうして? 」
私は力の限り、大声で叫んだ。電車がすぐ側をすり抜けていき、みのるが線路に飛び込もうとした間美にタックルして、体を抑え込んでいるのが見え、私はへなへなと全身の力が抜けていくのを感じたが、どうにか間美の前まで行き、倒れている彼女の側に座り込んで、一言だけ呟いた。
「何をやっているの……」
間美と、間美の腕をつかんで離さないみのると、私は、しばらく無言のまま、互いの顔を見合っていた。息がどうにか落ち着くと、間美は私とみのるから目を逸らし、囁くような声で言った。
「止めないでほしかった」
「……止めないでほしかった? 」
思わず私が言葉を繰り返すと、間美は言った。
「こずえには分からないよ」
そう言われた途端、私の頭の中で、プツンと何かが切れた。私は一気にまくし立てた。
「ずっと、ずっと、間美に会えなくて寂しかったんだから。言いたいことも、説明したいこともあったし、何より間美の側にいたかった。私のことが大嫌いでも、憎んでいても構わないけれど、私は間美に、死んでほしくないの! 」
すると間美の目が、ざっくり人を切るように、鋭い光を放った。それから間美もまくしたて始めた。
「こずえは幸せでしょう、高山さんと付き合えて! でも私に幸せは来ないし、第一、幸せなんて分からない! 何をしても、抜け出したくても抜け出せない絶望しかない、今の私の気持ちなんて、能天気なこずえに、話したって、絶対に分かるものか! 」
「私は馬鹿だけど、これだけは分かってる。間美が、……間美が、大切なの! これからいっぱい、色々なことをいっぱい話したいと思っていたし、死んで会えなくなるなんて、絶対に嫌だ! 」
「なら、私をこの苦しさから救ってよ! 闇ではなく光を見せて! それができないのなら、……私を止めないで! 」
そう絶叫すると、間美は大声で泣き出した。彼女がそんなに乱れて、泣き叫ぶ所を、これまで見たことがなかったし、想像もできなかった。拒絶を覚悟で、私はそっと彼女の肩に手を置いたが、特に払いのけようともしない。私は静かに言った。
「今言ったことや、そういう思いを、これからはたくさん、私やみのるに話して聞かせてよ。高山さんが、間美が自殺するかもしれないって連絡をくれて、私達は間美を探し始めたの」
「……高山さんが? 」
「忘れていたでしょ。私も高山さんも、間美の敵ではなくって、仲間だってこと」
「二人が……、私の仲間? 」
間美の言葉にみのるはフッと笑って言った。
「俺も仲間に加えてよ」
私や高山さんやみのるが間美を助けたくても、力が及ばないことも一杯あるし、これから間美が絶対に自ら死なない、とは言えない。人生の扉を開いてゆくのは、間美の力でしかできない、彼女の人生の仕事だ。
そんな間美の側に、私達がいることを忘れないでほしい。
嫌がられようが、無視されようが、私は間美を見守っている。きっと、高山さんも、みのるも。それぞれの力が小さくても、絶対的なパワー。天使や神のような神々しい力でなくても―。いや、だからこそ、とても身近で大切なパワー。
何だか自然に涙が溢れてきた。どうしてそんな分かりきった、当たり前のことを信じてくれないの。私は泣きながら言った。
「間美が私のことを嫌いなら、……っく、側にいるのをやめる。友達をやめても、……っく、いいし。でも、間美を見守りたい気持ちに、変わりは、……っく、ないから。変えるつもりもない」
間美も泣きながら言った。
「高山さんと、っく、うまく、やってる? 」
「この間、初めてのデートをしたよ。神社へ行ったの。そこでお守りを買ってきた……、間美に」
「私に? 」
「そう。受験のお守り。見てみる? 」
「うん」
私はいつでも渡せるように、常に鞄に忍ばせていたお守りを、そっと取り出して間美に渡した。間美は何も言わずに、しばらく受け取ったお守りを眺めていたが、ぽそっと言った。
「大学……。実は行くの、今、迷っているの」
「どうして? 」
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