シャングリラ

桃青

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30.

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 ☆☆☆
 駅で高山さんと別れ、家に帰ってくると、やわらかパピーと堅物マミーが、リビングで大福を食べながら、お茶をごくごく飲んでいた。二人を横目で見ながら、自分の部屋へ行こうとすると、堅物マミーが叫ぶのが聞こえた。
「こずえ! ちょっと来なさい! 」
 妙な気持ちになりつつ、進路を変えて二人の元まで行くと、堅物マミーは目を三角にして、呟いた。
「デート」
 やわらかパピーも私を眺めつつ、ほよほよした笑顔で言った。
「こずえ、いつもよりちょっとだけ可愛いねえ。大福、食べるかい? 」
「今はいらない。言いたいことがあるなら、はっきり言ってください」
「ならマミーははっきり言いますけれど、こずえはデートをしたのでしょう」
「否定はしません」
「高校の同級生か、先輩、オア、後輩? 」
「違います。私、もう行くね! 」
 私がリビングから出ようとすると、やわらかパピーは叫んだ。
「大福は取って置くからね! 」
 堅物マミーも負けじと叫んだ。
「経済的にしっかりした相手を選ぶのよ! 顔だとか、ルックスだとか、甘いものに騙されてはいけません! 」
 両親を振り切り、一直線に自分の部屋まで進んで中へ入ると、ほっと安心感に包まれて、呟いた。
「バレたか」
 それから今日のデートの戦利品であるお守りを、鞄の中から丁寧に取り出して、紫色の学業のお守りを見ながら言った。
「間美……」
 あのメンタルの不安定さで、今頃学業に励んでいるのかと思うと、胸が痛む。仮に間美と高山さんが付き合ったとしても、精神の安定にプラスになるのか、分からない。むしろすっきり振られて、私を見返してやるつもりで勉強に励めば、いい成績がとれるかもしれなかった。

 高山さんとの恋愛は、多分高校生らしからぬ恋愛だった。ときめきも嬉しさもないわけではないけれど、何よりも先に、二人の間には安定が来るのだ。高山さんの顔や体のパーツ、目や手やスタイルを思い出しても、ときめくというより、ホッとする。
 逆に高山さんにとって、私はどんな存在感を放つのだろうか? もし機会があったら聞いてみたいと思う。
(間美が希望の大学に合格して、楽しい学園ライフが送れますように)
 私はそう、紫のお守りに祈った。そ・れ・で。私の人生設計はどうなっているのか。高山さんの存在とは関係なく、当分あの天然石のお店で働きたい。現状では謎に包まれているが、石に詳しくなることが、私をなにがしかの未来へ導いてくれるかもしれぬ。ネットショップなんかで、ハンドメイドの天然石ブレスレットを作って、売ったりするのもいいし、要するに私は石が好きなのだ。石に関わる仕事ができればいいなと、何となく思った。今はその程度しか未来絵図が描けないが、少しだけ方向性は定まった気がする。
(今日、神様にお祈りしたおかげかしら)
 私は心でぽつりと呟いた。
 ☆☆☆
 縁とは、不思議なものだと思う。間美やみのる、高山さんに出会ったのも縁だし、縁によって、私は何かに導かれていく。不確定な私は、今は縁に身を委ねてみるのも悪くないのかも。どのみち縁は、自分とピントが合った時に自然な流れで訪れるものだし、間美にもこれから先、色々な出会いと別れがあるだろう。
 たとえ私との縁が切れても、それで何かが終わるわけじゃない。道は続いてゆく。それぞれ、個々に、自分の道があり―。
 私は静かに笑いながら思った。さよならでもさよならじゃない。交点を結んだ私達の関係は、人生という記憶の中で積み重ねられ、永遠になる。
 高校を卒業して社会に出たら、色々な結びつきを、一つ一つ、大切に味わおう。そして視点は常に未来へ。
 私は私の道を。未来と結びついてゆくために、私にできることはただ一つ。

 私自身であり続けることだ。
 きっと、そうだと思う。

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