シャングリラ

桃青

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「そこが天然石の魅力だよね。我を忘れて見ていられるっていう」
「お、お金、払います」
「うん。千八百円になります」
「……まけたりしてくれないのですか? 」
「そこは厳しく。店の売り上げに貢献してくれ」
「ふっ」
 思わず私が吹き出すと、高山さんも笑った。
「ははは。ならもう一度聞くよ。俺と付き合ってくれる? 」
「はい」
「なら、店じまいをしよう。それから駅まで一緒に帰らないか? 」
「喜んで」
 私と高山さんは笑みを浮かべて、しばらく見つめ合った。それからいそいそと店の片付けを始め、それが済むと、二人でショッピングモールを後にした。冷たくなってしまいそうだった私の心は、彼のおかげでほわほわと温かくなった。ゆっくりと帰路を高山さんと歩きながら、私は言った。
「高山さん、あなたが、私の人生初の彼氏です」
「そうか。責任重大だな」
「彼氏ができたら、やってみたいことが色々ありました。妄想? 夢想っていうか」
「女の子の夢か……。例えばどんな? 」
「水族館で、一緒に奇麗な魚を見たい。美術館で、好きな人の絵を一緒に見たり、それから、ショッピングしながらデートしたりとか」
「要するにデートがしたいんだね。俺も実は、デートには夢があって」
「男の人の妄想ですね。それはどんな? 」
「二人で神社に行きたい」
「神社、ですか? 何故に? 」
「いや、俺が子供のころ育った場所って、周りが寺や神社だらけだったんだ。で、俺は小さなころから、一人で寺や神社に行くことが、よくあったの。そこで自然に思ったんだよね。好きな人……、つまり彼女と、そういう神の領域に行ったら、どんな気持ちになるのかなって」
「恋なんて、フワフワした俗な感情が、吹っ飛びそうです。でも、おみくじを引いたり、お守りを買ったりするのは、楽しそう」
「ま、そういう俗な楽しみ方もある」
「高山さんは、私の告白に、すぐ返事をくれなかったでしょう」
「うん」
「どういった心境の変化で、付き合ってくれたのですか? 別に言わなくてもいいんですけれども」
「それは……。とってもナチュラルな気持ちになったの」
「ナチュラル? どういうこと? 」
「うん、告白? よし行こう、って気持ちに素直になれたんだ」
「あー、うん。あー、はい、なんか、何となく分かる。とても高山さんらしい」
「こずえさんなら、分かってくれると思っていた。じゃ、今度、俺の仕事休みに、デートでも行きますか」
「あの、それって、すっごく嬉しいです」
「そうかい。場所はどこがいい? 」
「私が決めてもいいんですか? 」
「要望があるならね。と言っても、できたら大金を使わない所で」
 私達は笑いながら、まだまだ話を続けた。行く先に駅の明かりが見えてきても、話は当分終わりそうもなかった。彼に触れていないのに、高山さんと手を結んでいる感覚が存在していたのは、何故だろうか。
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