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私達はそう言い合うと、いつも通りに準備をして、いつも通りに高山さんの隣に立った、はずだった。が、彼は言った。
「どうしたの」
「何がですか? 」
私が訊ねると、彼は透明な目で、まるで私を透視するように眺めながら、言った。
「複雑な気持ちを抱えている。違う? 」
「まあ、そうですけれども。高校生も色々あるんです」
「青春だなあ。大丈夫、若さがあれば乗り越えられるよ」
「そう信じたい。高山さん」
「ん? 」
「仕事が終わった後でいいから、私にブレスレットを一つ、選んでくれませんか? ちゃんと自腹で買いますので」
「今日も最後までいるんだったね」
「はい」
「なら、店を閉めた後に選んであげるよ。それでいい? 」
「いいです」
そう答えてから、すっと高山さんを見つめると、微かに笑っていて、何の笑いだろうかと私は思った。だがすぐ、私達は真顔に戻り、高山さんは店内で迷っている様子のお客に、声を掛けにいった。
レジ打ちの仕事をしたり、店番をしたりしながら、私は考えずにいられなくなった。もしここの仕事を辞めることになったら、私はどうするのだろう。また新しい仕事を探さなければならないけれど、どんな仕事を選ぶべきか? いつか私は、これこそ私の居場所、と言いたくなるような仕事に、辿り着けるのだろうか?
自分にこれといった特色がないのは、弱みでもある。自由こそ、何よりも私が望むもの。だが何を目指して、人生を歩いていけばいいのか? できるなら、高校を卒業するまでに、何らかの軸を定めておきたい。無理矢理でなく、あくまでもナチュラルな流れで。
結婚。就職。そうだ、どちらも今の私にとっては、『逃げ』なのだ。自分が逃げる道を選ばないことを、自分自身とちゃんと向き合おうとしていることを、少し誇らしく思ってはいけないものだろうか。
とは言ってもだ。現実問題として、お金が主軸となっている資本主義の世界で、お金を得る方法は、外さずに考えなくてはならない。
どうしたものだろうか。どうすべきか?
「どうしたの」
「何がですか? 」
私が訊ねると、彼は透明な目で、まるで私を透視するように眺めながら、言った。
「複雑な気持ちを抱えている。違う? 」
「まあ、そうですけれども。高校生も色々あるんです」
「青春だなあ。大丈夫、若さがあれば乗り越えられるよ」
「そう信じたい。高山さん」
「ん? 」
「仕事が終わった後でいいから、私にブレスレットを一つ、選んでくれませんか? ちゃんと自腹で買いますので」
「今日も最後までいるんだったね」
「はい」
「なら、店を閉めた後に選んであげるよ。それでいい? 」
「いいです」
そう答えてから、すっと高山さんを見つめると、微かに笑っていて、何の笑いだろうかと私は思った。だがすぐ、私達は真顔に戻り、高山さんは店内で迷っている様子のお客に、声を掛けにいった。
レジ打ちの仕事をしたり、店番をしたりしながら、私は考えずにいられなくなった。もしここの仕事を辞めることになったら、私はどうするのだろう。また新しい仕事を探さなければならないけれど、どんな仕事を選ぶべきか? いつか私は、これこそ私の居場所、と言いたくなるような仕事に、辿り着けるのだろうか?
自分にこれといった特色がないのは、弱みでもある。自由こそ、何よりも私が望むもの。だが何を目指して、人生を歩いていけばいいのか? できるなら、高校を卒業するまでに、何らかの軸を定めておきたい。無理矢理でなく、あくまでもナチュラルな流れで。
結婚。就職。そうだ、どちらも今の私にとっては、『逃げ』なのだ。自分が逃げる道を選ばないことを、自分自身とちゃんと向き合おうとしていることを、少し誇らしく思ってはいけないものだろうか。
とは言ってもだ。現実問題として、お金が主軸となっている資本主義の世界で、お金を得る方法は、外さずに考えなくてはならない。
どうしたものだろうか。どうすべきか?
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