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☆☆☆
(バイトに行かないと……)
そう心で呟くと、私は歩道を歩き出した。雨でどんどんびしょ濡れになっていくが、そんなことはどうでもよかった。間美の指摘が、間美の思いやりであることは分かっている。彼女は多少の心の傷を感じながら、それでも私を解放してくれたのだ、好きな気持ちを自由にしていいと。
そうだとしたら。私は偽善者になりたくないと思う。どうすべきだろう。どうしたらいい。
雨が降っていてよかったと思った。この雨は、私の無駄な懸念や雑念を、洗い流してくれる。
(バイトへ行こう)
私はもう一度、心で呟いた。間美の澄んだ瞳、彼女の奇麗な顔が、ぽっかり頭に浮かんでくる。失いたくない大切な何かが、そこにはあった。真っ直ぐな心と、色々な意味を含めた美しさ。それと、どこか儚い信頼。私はショッピングモールに着くと、簡単に髪と制服から水を絞り、中へ入っていった。
☆☆☆
「どうしたんだ、その恰好! 」
高山さんは私を見た途端、目を真ん丸にして叫んだ。
「雨が降っていたんです」
「そんなことは分かっている。傘はどうしたの? なかったら、コンビニで買えるでしょ」
「雨に濡れるのもいいかなって。どうせ、バイトをするときに着替えるし」
「もう。とにかく早く服を着替えてきな。全く、こずえさんは時々、予測不能の行動に出る」
「はい」
私はぼんやりと返事をし、店の奥へ入っていった。鏡に映る自分の姿を見て、確かにこれは酷いなと思いつつ、着替えを済ませると、気持ちを新たにし、店に出て高山さんの隣に立った。そして言った。
「高山さん」
「うん? 何」
「お話があるんです」
「おや。どんな話? 」
「今、ここで言いたくない」
「……。今日ラストまでいるよね」
「います」
「なら、店が終わった後に話を聞く。それでいい? 」
「いいです。ありがとうございます」
「そういえば、話していなかったけれど、間美さんとメールのやりとりをしているんだ」
「それは本人から聞きました」
「いつ? 」
「ついさっき」
「やり始めて、二週間くらいになるかな。女子高生とメール友達だなんて、パパ活とか言われそうだ」
「間美は、心から助かっていると感じているみたい」
「本当? 俺的には軽いノリで始めてしまったけれど。負担にならなければいいが、と思っている」
「間美から……、好きですって言われました? 」
「言われていない。俺も好かれているんだか、嫌われているんだか、次第にはっきりしなくなってきた」
「女心と秋の空」
「ま、お役に立つなら力を貸しますって、感じでいる。微力ながらも」
「偽善でなく? 」
「偽善かな。そこは俺にもよく分からない」
「その言葉を聞けて良かったです。心の病から救います、という人は、何となく私は信じないことにしていますから」
「分かるな。間美さんとメールをしていると、彼女がもともとクールだからかもしれないけれど、俺にできることは何もない気がしてくるよ」
「お客さんが来ました。いらっしゃいませー」
「あ、いらっしゃいませー」
(バイトに行かないと……)
そう心で呟くと、私は歩道を歩き出した。雨でどんどんびしょ濡れになっていくが、そんなことはどうでもよかった。間美の指摘が、間美の思いやりであることは分かっている。彼女は多少の心の傷を感じながら、それでも私を解放してくれたのだ、好きな気持ちを自由にしていいと。
そうだとしたら。私は偽善者になりたくないと思う。どうすべきだろう。どうしたらいい。
雨が降っていてよかったと思った。この雨は、私の無駄な懸念や雑念を、洗い流してくれる。
(バイトへ行こう)
私はもう一度、心で呟いた。間美の澄んだ瞳、彼女の奇麗な顔が、ぽっかり頭に浮かんでくる。失いたくない大切な何かが、そこにはあった。真っ直ぐな心と、色々な意味を含めた美しさ。それと、どこか儚い信頼。私はショッピングモールに着くと、簡単に髪と制服から水を絞り、中へ入っていった。
☆☆☆
「どうしたんだ、その恰好! 」
高山さんは私を見た途端、目を真ん丸にして叫んだ。
「雨が降っていたんです」
「そんなことは分かっている。傘はどうしたの? なかったら、コンビニで買えるでしょ」
「雨に濡れるのもいいかなって。どうせ、バイトをするときに着替えるし」
「もう。とにかく早く服を着替えてきな。全く、こずえさんは時々、予測不能の行動に出る」
「はい」
私はぼんやりと返事をし、店の奥へ入っていった。鏡に映る自分の姿を見て、確かにこれは酷いなと思いつつ、着替えを済ませると、気持ちを新たにし、店に出て高山さんの隣に立った。そして言った。
「高山さん」
「うん? 何」
「お話があるんです」
「おや。どんな話? 」
「今、ここで言いたくない」
「……。今日ラストまでいるよね」
「います」
「なら、店が終わった後に話を聞く。それでいい? 」
「いいです。ありがとうございます」
「そういえば、話していなかったけれど、間美さんとメールのやりとりをしているんだ」
「それは本人から聞きました」
「いつ? 」
「ついさっき」
「やり始めて、二週間くらいになるかな。女子高生とメール友達だなんて、パパ活とか言われそうだ」
「間美は、心から助かっていると感じているみたい」
「本当? 俺的には軽いノリで始めてしまったけれど。負担にならなければいいが、と思っている」
「間美から……、好きですって言われました? 」
「言われていない。俺も好かれているんだか、嫌われているんだか、次第にはっきりしなくなってきた」
「女心と秋の空」
「ま、お役に立つなら力を貸しますって、感じでいる。微力ながらも」
「偽善でなく? 」
「偽善かな。そこは俺にもよく分からない」
「その言葉を聞けて良かったです。心の病から救います、という人は、何となく私は信じないことにしていますから」
「分かるな。間美さんとメールをしていると、彼女がもともとクールだからかもしれないけれど、俺にできることは何もない気がしてくるよ」
「お客さんが来ました。いらっしゃいませー」
「あ、いらっしゃいませー」
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