シャングリラ

１３．

　家に着いた時刻は夕刻だったが、家には誰もいなかった。堅物マミーはパートで、やわらかパピーは仕事からまだ帰ってきていない。私は自分の部屋で部屋着に着替えると、夕焼けの光が射し込む台所で、明かりを点けてから、呟いた。
「それじゃ、やりますか」
　堅物マミーには、一人暮らしになった時に、スムーズにできるようになりたいからと言って、家事を少し任せてもらっていた。マミーが夕方のパートもやっていることもあり、アルバイトがない時の皿洗いと夕食作りは、私の役目となっていた。私は皿をさっさと洗いながら思った。
（お金がちゃんと稼げるようになって、一人暮らしができたら、こういう家事を、全部一人でするようになるんだな）
（好きな食器を買って、好きな料理道具を買って、好きな家具を買って、……私の好きなものに囲まれた生活！　）
（後はお金に余裕ができる仕事につければいいのだけれど）
　そんなことを考えながら皿洗いを終え、パタンと冷蔵庫の扉を開けて、中を確認しながら、独り言を言った。
「今日の夕食は、鳥つくねに決定～」
　それから、野菜や肉を台に並べていると、どうしても間美のことが気になりだした。でも自分の手出しが無用だということだけは、分かっている。ここは彼女の力でどうにかしないと、先に進まない。高山さんは何を考えて、間美のメルアドを教えてほしいといったのだろう？　それすらも、今となっては私の手が届かないところにある。
　私は野菜を刻むことに没頭しだした。何故だか無性に、堅物マミーとやわらかパピーの顔が見たくなった。