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何か言葉を掛けたいと思うのだが、そうするのがはばかられた。私も、高山さんも、黙ってただ、間美から自然に発せられる言葉を待った。彼女が自分の心の内を話してくれるのを、待った。
「ここに来ると、楽しいんです」
間美はやっと、そう言った。涙で潤んだ目で、真っ直ぐに高山さんを見て、続きを話した。
「日常が楽しくなくても、ここに来れば、きっと明るく楽しくなれるって、そう思っていて」
「ならば、また来ればいいでしょう」
そういう高山さんの言葉に、間美はかぶりを振って、ゆっくりと言葉を絞り出した。
「来ては、いけないです」
「どうして」
「私、今は、勉強を、頑張らないといけないから、だから……、駄目です」
「辛いときは、息抜きをしてもいいんじゃないの。何らかの方法でさ」
「ここへ、来ては、いけない」
「なぜ? 」
間美は両手で顔を覆い、高山さんに背を向けると、早足で店を出ていった。私は大声で間美に呼び掛けた。
「間美! 」
しかし、私の声に間美が答えることはなかった。彼女の姿はたちまち遠くなっていき、人混みの中へ消え失せてしまった。私は後悔の念と共に、独り言を言った。
「私がいけなかったのかもしれない。今日でここへ来るのが最後なんて言ったから……」
「最後って? 」
高山さんの疑問に答えようとしたが、うまい言葉が見つからずにいると、彼の方から、発言をした。
「俺のうぬぼれでないといいんだけど、もしかして―」
「はい」
「間美さんって、俺のこと好きかな」
そう言われると、私の中で何かがカチンときて、心で叫んだ。
(間美だけではなく、私も高山さんのことが好きなのです! )
でも彼は今の私の様子に興味がないようだった。私が潤んだ目で、高山さんを見つめていても、だ。私は小さく諦めの吐息をついてから、言った。
「それは間美本人に聞いてください。私が言うべきことじゃないです」
「それとも、彼女が何らかの形で、俺を必要としているか」
「そうかもしれません」
高山さんは真剣に考えている様子を見せたが、強い態度で私に言った。
「こずえさん、間美さんのメルアドを知っている? 」
「ええ、もちろん」
「俺に教えてくれないかな。間美さんには、俺のわがままでこずえさんから聞き出したって言うから」
「そうは言っても、教える私にも責任がありますよね。ちょっと考えさせてください」
「はい」
「……ここは、罪を被りましょう。教えておきます」
「ありがとう。ついでにこずえさんのメルアドも教えて」
「私の? 」
「うん」
「……何で、ですか? 」
「うん? 何となく」
「何となく? どういうこと? 」
「ま、ぶっちゃけて言えば、お友達になりましょうってことだ」
「爽やかな高山さんが実は悪人で、私や間美のアドレスを売り飛ばしたり、悪用したりするとか……」
「俺って、そういう奴に見える? 」
「見えないですけれど……。なら、いいです。両方教えておきます」
私が少しいじけた態度で、間美と私のメルアドを伝えると、私を見つめている高山さんに気が付いた。そんな目で見られると、私まで泣いてしまいそうになった。自分の未熟さをはっきりと感じる。確かに私は、大人でも子供でもない高校生なのだ。私はもやもやした気分を胸に押し込み、できるだけ明るい声で言った。
「今日から、高山さんと正式なお友達ですね」
「そうね」
「私で良かったら、高山さんの話とか悩み事を、色々聞きますから」
「好きな人の話とか? 」
「そうそう、恋の話とかも……。って、高山さん、好きな人いるんですか? 」
私が目を丸くして問いただすと、高山さんは数秒黙り込んだ後、答えた。
「それは、秘密」
「ええ? 全然私に心を開いていないじゃないですか」
「なら、こずえさんの好きな人は? 」
「それは……、ええと……、秘密です」
「お互い様ってことだね」
そう言って彼は、くつくつと笑った。つい私もつられて笑ってしまい、それから少し話をした後、仕事の邪魔にならないように彼にさよならして、家に帰ることにした。
「ここに来ると、楽しいんです」
間美はやっと、そう言った。涙で潤んだ目で、真っ直ぐに高山さんを見て、続きを話した。
「日常が楽しくなくても、ここに来れば、きっと明るく楽しくなれるって、そう思っていて」
「ならば、また来ればいいでしょう」
そういう高山さんの言葉に、間美はかぶりを振って、ゆっくりと言葉を絞り出した。
「来ては、いけないです」
「どうして」
「私、今は、勉強を、頑張らないといけないから、だから……、駄目です」
「辛いときは、息抜きをしてもいいんじゃないの。何らかの方法でさ」
「ここへ、来ては、いけない」
「なぜ? 」
間美は両手で顔を覆い、高山さんに背を向けると、早足で店を出ていった。私は大声で間美に呼び掛けた。
「間美! 」
しかし、私の声に間美が答えることはなかった。彼女の姿はたちまち遠くなっていき、人混みの中へ消え失せてしまった。私は後悔の念と共に、独り言を言った。
「私がいけなかったのかもしれない。今日でここへ来るのが最後なんて言ったから……」
「最後って? 」
高山さんの疑問に答えようとしたが、うまい言葉が見つからずにいると、彼の方から、発言をした。
「俺のうぬぼれでないといいんだけど、もしかして―」
「はい」
「間美さんって、俺のこと好きかな」
そう言われると、私の中で何かがカチンときて、心で叫んだ。
(間美だけではなく、私も高山さんのことが好きなのです! )
でも彼は今の私の様子に興味がないようだった。私が潤んだ目で、高山さんを見つめていても、だ。私は小さく諦めの吐息をついてから、言った。
「それは間美本人に聞いてください。私が言うべきことじゃないです」
「それとも、彼女が何らかの形で、俺を必要としているか」
「そうかもしれません」
高山さんは真剣に考えている様子を見せたが、強い態度で私に言った。
「こずえさん、間美さんのメルアドを知っている? 」
「ええ、もちろん」
「俺に教えてくれないかな。間美さんには、俺のわがままでこずえさんから聞き出したって言うから」
「そうは言っても、教える私にも責任がありますよね。ちょっと考えさせてください」
「はい」
「……ここは、罪を被りましょう。教えておきます」
「ありがとう。ついでにこずえさんのメルアドも教えて」
「私の? 」
「うん」
「……何で、ですか? 」
「うん? 何となく」
「何となく? どういうこと? 」
「ま、ぶっちゃけて言えば、お友達になりましょうってことだ」
「爽やかな高山さんが実は悪人で、私や間美のアドレスを売り飛ばしたり、悪用したりするとか……」
「俺って、そういう奴に見える? 」
「見えないですけれど……。なら、いいです。両方教えておきます」
私が少しいじけた態度で、間美と私のメルアドを伝えると、私を見つめている高山さんに気が付いた。そんな目で見られると、私まで泣いてしまいそうになった。自分の未熟さをはっきりと感じる。確かに私は、大人でも子供でもない高校生なのだ。私はもやもやした気分を胸に押し込み、できるだけ明るい声で言った。
「今日から、高山さんと正式なお友達ですね」
「そうね」
「私で良かったら、高山さんの話とか悩み事を、色々聞きますから」
「好きな人の話とか? 」
「そうそう、恋の話とかも……。って、高山さん、好きな人いるんですか? 」
私が目を丸くして問いただすと、高山さんは数秒黙り込んだ後、答えた。
「それは、秘密」
「ええ? 全然私に心を開いていないじゃないですか」
「なら、こずえさんの好きな人は? 」
「それは……、ええと……、秘密です」
「お互い様ってことだね」
そう言って彼は、くつくつと笑った。つい私もつられて笑ってしまい、それから少し話をした後、仕事の邪魔にならないように彼にさよならして、家に帰ることにした。
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