buroguのセカイ

桃青

文字の大きさ
上 下
47 / 48

エピローグ2

しおりを挟む
「そこが人間の心の面白い所ね。恋愛の話に戻すと。十代や二十代の頃はさ、自分の本当に相性のいい男がきちんと見えている人って、そんなに多くないから、痛い男女関係もあるし、ま、色々あるじゃない」
「私はそれほど色々なかったよ。付き合った人も二人」
「そのうえ処女だしね。とにかく、三十代、四十代くらいになってくると、理想を追求するのではなく、妥協できるようになるよね。本当に必要なこと以外、切り捨てられるようになる。
 今の世ではそれが下手な人が、異常に多いとも思うんだけれど」
「恋人のいない友ちんが、恋愛について語っております」
「そうやって許容範囲を広げていても、無理な人は無理なんだよ。世界に『絶対』はない、というのは、私の持論だけれども、絶対的に超えられないものは、確かにある」
「ウン」
「それについては、さよならをするのが一番賢明だと思うんだ。とりあえず、今はさよなら。川村さんとの関係は、美里にとってそういうものだったのでしょう。だから美里の判断は正しかったのだと思うよ」
「あの……」
「何? 」
「お寿司、食べていい? 気が収まったら、おなかが空いてきて」
「食べなさい、食べなさい。そうね、私も食べよう」
 私達は、黙々とお寿司を食べた。ネタの新鮮さがしっかりと伝わる奇麗な握り寿司で、味も上品だ。私は出されたお茶をごくごく飲んでから、言った。
「特別な日にさ、お寿司って食べたくならない? というか、特別な日にお寿司を食べると決めて、楽しみに待ちつつ、日常を頑張ったりしない? 」
「そうねえ。確かにお寿司って、あんまり悪いイメージと結びつかないよね。生魚が苦手な人は別として」
「だから、今日という日は特別感があります。何やらすがすがしい気持ちになって」
「美里が明るくなって良かった。お寿司を買った甲斐があるというものですな」
「私達、もしかしたら一生、結婚しないかも。でもさ、だからアンハッピーってわけでもないよね」
「むしろ、男の人と暮らすことで、不幸になるかもしれないよ。私の偏見では、プライドの断捨離ができていない男って、それなりにいる。そういう人と共に暮らしていくことは、やっかいでしょうね」
「でもね、もし友ちんが結婚したら、私は祝福するから」
「そーねー。まあ、必要に迫られて、そういう選択をすることも、あるかもなあ」

 それから、私と友ちんは話した。あることないこと、日常からゴシップネタまで幅広く、果てが見えないくらい、話し合った。笑ったり、考えたり、真剣になったり、楽しくなったり。ところでネットの世界って何だ? と、ふと私は思った。私は仮想空間で、何をやろうとしていたのか。何を伝えようとしていたのだろう? 分かっていると思っていたことが、急速に見えなくなる。
 霞んでゆく世界。行き着く先はどこだろう。
 我に返れば、友ちんがアハハと馬鹿笑いしながら、とうとうと話をしていた。私はほっとし、五感が使える幸せを思った。生きていると感じることは、苦痛を伴わないなら、とても幸せなことだ。私は今、その幸せに、どっぷりと浸かっている。
「ねえ、友ちん」
「何? 美里」
「今、幸せ? 」
「うん。なんだか楽しいし」
「これ以上の幸せがあるかな? 」
「う……ん。どうかな。あったとしたら、それは夢想か、勘違いか。それか、神的な何かだろうね」
「恋は勘違いであるとは、友ちんの名言ですが」
「私の言葉じゃないかも。どこかで聞いたことのあるような言葉だよね。さらに私が語るなら、恋は性欲が見せる幻とでも言おうか」
「幻だけでは、人は生きていけない」
「幻は食べても、おなかが膨れないからね」
 私はハッと、もう真夜中になっていることに気付き、終電になる前に帰ると言って、友ちんに別れを告げ、彼女の家を後にすることにした。夜道を歩いていると、まるで世界が優しいように感じるのはなぜだろう。
 その時すでに、私は家へ帰ってからやることを決めていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ぼくはヒューマノイド

桃青
現代文学
自分は人間だと思っていたのに、実はロボットだった……。人間になれないロボットの心の葛藤が、固めに、やや哲学的に語られていきます。SF色は強くなく、純粋で真摯な話です。ほぼ朝にアップします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

遅れてきた先生

kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。 大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。

これも何かの縁(短編連作)

ハヤシ
現代文学
児童養護施設育ちの若夫婦を中心に、日本文化や風習を話題にしながら四季を巡っていく短編連作集。基本コメディ、たまにシリアス。前半はほのぼのハートフルな話が続きますが、所々『人間の悪意』が混ざってます。 テーマは生き方――差別と偏見、家族、夫婦、子育て、恋愛・婚活、イジメ、ぼっち、オタク、コンプレックス、コミュ障――それぞれのキャラが自ら抱えるコンプレックス・呪いからの解放が物語の軸となります。でも、きれいごとはなし。 プロローグ的番外編5編、本編第一部24編、第二部28編の構成で、第二部よりキャラたちの縁が関連し合い、どんどんつながっていきます。

処理中です...