buroguのセカイ

桃青

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ラストシーン

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(夕日を見にいこう)
 街の人混みに紛れ込み、歩きながら私はそう思った。電車に乗って、海へ行って、沈んでゆく夕日が見たい。人出の多い街中で、活動的な人々と対照的に、私の心だけがフリーズしている気がする。暖かい気候なのに、何故かうすら寒かった。理由もなく、自然に触れたかった。宇宙を感じたかった。川村さんと通じ合わなかった心が、人を信じることに対して、懐疑的になってしまったのだ。
 私はもう一度、人を信じたい。そのために、神的な存在に頼ろうとしているのかもしれない。
 
すぐ駅に着いて、乗り場を探して、電車に乗った。窓際に立って外を眺めると、空は優しいピンク色だ。なんて奇麗なんだろう、と私は思った。この空の色は作り物じゃない。どんな芸術家にも再現できないリアルが、そこにはある。
 私は失恋したのだろうか。
 そもそも恋をしていた気分ではなかったけれど、何かを失った痛みはある。川村さんにはそれなりに頼っていた……というか、少し依存していたし、それゆえ助けられているとも思っていた。
(あいたた。私の勘違いだ)
 自分を自責する心と、いや、私は悪くないと主張する心が、頭の中でカンカンと戦っていた。ふと窓の外を見ると、空は相変わらず奇麗だった。

 目的の駅に着いて、改札口を出ると、掲示板の地図で現在地を確認して、後はスマホの地図に頼りつつ、海に向かって歩いていった。人出はそんなに多くなく、すでに遠くで光を放っている海辺の空に、海鳥が飛んでいるのが見えた。
(川村さんは、私を愛していたのだろうか)
 そんな考えがよぎっていく。私にしろ、他の女性にしろ、女に対してああいう愛し方しかできないのなら、真に通じ合うことなどできはしまい。だとしたら、随分寂しい人ではないか?
 私だって、人のことを言える立場でないが、本当に好きになれる人は、ああこの人だと、分かると思う。そして真の愛で通じ合うことができると思う。
理想だろうか? いいや、私はそう信じている。
 私は川村さんを、友情ごっこに利用し、その見返りとして、彼は私の女性の部分を利用しようとした。互いに幻を掴もうとして、現実にぶち当たって、私は夢から覚めた。
(川村さんや、ブログとの関係は、私にとっては幻―。電源が落ちれば、消えてなくなる世界―)
 無論、SNSを否定するつもりはない。確かに、ある種の結びつきの役には立っているだろう。でも私の場合は、関わり方を間違えていたのかもしれない。
(またもや勘違い。あいたたたた)
 ふと顔を上げると、目前には砂浜と、海がどこまでも広がっていた。サク、サク、と砂浜を歩いて、私は海を目指した。
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