44 / 48
ラストシーン
しおりを挟む(夕日を見にいこう)
街の人混みに紛れ込み、歩きながら私はそう思った。電車に乗って、海へ行って、沈んでゆく夕日が見たい。人出の多い街中で、活動的な人々と対照的に、私の心だけがフリーズしている気がする。暖かい気候なのに、何故かうすら寒かった。理由もなく、自然に触れたかった。宇宙を感じたかった。川村さんと通じ合わなかった心が、人を信じることに対して、懐疑的になってしまったのだ。
私はもう一度、人を信じたい。そのために、神的な存在に頼ろうとしているのかもしれない。
すぐ駅に着いて、乗り場を探して、電車に乗った。窓際に立って外を眺めると、空は優しいピンク色だ。なんて奇麗なんだろう、と私は思った。この空の色は作り物じゃない。どんな芸術家にも再現できないリアルが、そこにはある。
私は失恋したのだろうか。
そもそも恋をしていた気分ではなかったけれど、何かを失った痛みはある。川村さんにはそれなりに頼っていた……というか、少し依存していたし、それゆえ助けられているとも思っていた。
(あいたた。私の勘違いだ)
自分を自責する心と、いや、私は悪くないと主張する心が、頭の中でカンカンと戦っていた。ふと窓の外を見ると、空は相変わらず奇麗だった。
目的の駅に着いて、改札口を出ると、掲示板の地図で現在地を確認して、後はスマホの地図に頼りつつ、海に向かって歩いていった。人出はそんなに多くなく、すでに遠くで光を放っている海辺の空に、海鳥が飛んでいるのが見えた。
(川村さんは、私を愛していたのだろうか)
そんな考えがよぎっていく。私にしろ、他の女性にしろ、女に対してああいう愛し方しかできないのなら、真に通じ合うことなどできはしまい。だとしたら、随分寂しい人ではないか?
私だって、人のことを言える立場でないが、本当に好きになれる人は、ああこの人だと、分かると思う。そして真の愛で通じ合うことができると思う。
理想だろうか? いいや、私はそう信じている。
私は川村さんを、友情ごっこに利用し、その見返りとして、彼は私の女性の部分を利用しようとした。互いに幻を掴もうとして、現実にぶち当たって、私は夢から覚めた。
(川村さんや、ブログとの関係は、私にとっては幻―。電源が落ちれば、消えてなくなる世界―)
無論、SNSを否定するつもりはない。確かに、ある種の結びつきの役には立っているだろう。でも私の場合は、関わり方を間違えていたのかもしれない。
(またもや勘違い。あいたたたた)
ふと顔を上げると、目前には砂浜と、海がどこまでも広がっていた。サク、サク、と砂浜を歩いて、私は海を目指した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ぼくはヒューマノイド
桃青
現代文学
自分は人間だと思っていたのに、実はロボットだった……。人間になれないロボットの心の葛藤が、固めに、やや哲学的に語られていきます。SF色は強くなく、純粋で真摯な話です。ほぼ朝にアップします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
六華 snow crystal 5
なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5
沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。
雪のかけらみたいに綺麗な子。
修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
遅れてきた先生
kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。
大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる