buroguのセカイ

桃青

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 約束の日に、言われた通りに待ち合わせ場所の駅へ向かうと、スマホをいじっている川村さんの姿が、スッと目に飛び込んできた。背後から彼の肩をポン、と叩くと、すぐ私の存在に目を留め、ニッと笑ってから言った。
「ぴったり時間通りだね」
「待ちましたか? 」
「少しばかり。でも五、六分程度だよ。じゃあ、行く? 」
「はい。でもどちらへ? 」
「話がゆっくりできて、俺の写真もゆっくり見られる場所。となるとどこだろうか? 」
「うーん。個人的には、広々した公園なんかで、話をしたいですけれども」
「うん、分かった。なら、△△公園へ行こう。幸いこの駅の近くにあるし」
「いいですね。飲み物とかも、持っていきたいです」
「タピオカとか? 女の子は好きじゃない? 」
「私はノータピオカで。ペットボトルのコーヒーでいいです」
「なら、コンビニで調達するか」
「そうしましょう」
 そう言い合い、私達は歩き始めた。手近なコンビニで互いに飲み物を買うと、私は先を行く川村さんの後に、ひっそりとついて歩いていった。理由は謎だが、その時頭の中で、さだまさしの『関白宣言』が流れ出した。何気ない近況を報告しあう内に、いつしか広大な公園へ辿り着き、大きな木々の間に伸びる小道をうろうろしつつ、椅子を探していると、川村さんが手招きをして言った。
「ここに座ろうよ! 川が見えて気持ちがいいよ」
 私はすぐ、川村さんのそばへ行き、目の前に広がる穏やかな川を眺めてから、
「いい場所ですね」
 と言って、ストンとベンチに腰を下ろした。川村さんも私の隣に座り、二人で黙って、人工的な作りのちょっと味気ない川をしばらく眺めていた。それからハッと我に返り、私は言った。
「あの、北海道はどうだったんですか? そのお話を……」
「うん。ちょうどいい気候で、気持ちよかったよ。函館は二回目だけれど、小樽は初めてだったんだ。だから函館をさっくりと見てから、後は小樽をぶらぶらしていた」
「小樽って、どんな町ですか? 私的には、ロマンがありそうな、そんなイメージだけれど」
「俺の想像よりは、寂れた印象だったな。観光客もそれほど多くないし、閉まっている店もあったし。シーズンオフだったのかもね。見るべき所がコンパクトにまとまっているから、時間を持て余してしまった」
「何か、ハプニングとかありませんでした? 」
「ハプニングではないけれど、夕方頃に、天狗山って山に行ったのね。夜景を見るために。それで、空がオレンジに染まり、ゆっくりと暗い青に変わっていって、街に明かりがともりだして、なんていうか、可愛らしい夜景がどんどん目の前に広がりだしたんだ。その変化を、あちこちうろつきながら眺めて、写真に収めて。それが、何ともいい時間だった。景色もとても奇麗だったしね」
「それは素敵なこと」
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