buroguのセカイ

桃青

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 月が眩しく輝きだした、ある夜のこと。発信音の鳴り響いた電話に出ると、相手は川村さんだった。彼は軽い調子で言った。
「元気? 」
「ええ、元気です。川村さんも元気そうですね」
「そりゃそうさ。旅を大いに楽しんで、パワーチャージしてきたからね」
「北海道はよかったですか」
「無論、北海道はいいものだけれど、旅の非日常的な感覚が最高に良かった。うまい物も食べたし」
「旅の話を聞きたいな」
「なら、会って話さない? その時、旅の写真も持っていくからさ」
「う……ん。そうですね。日程はどうします?」
「〇月〇日、〇〇駅に、午後三時っていうのはどう。休日だから、大丈夫でしょう? それとも他に予定がある? 」
「ないです。……分かりました。それで行きましょう」
「積もる話はその時まで取っておくよ。じゃあ今日はこれで」
「おやすみなさい」
 そう言って静かに電話を切ってから、息を吐いて私は言った。
「はあ。……気が重い」
 川村さんが嫌いというわけでもない。北海道の話は面白そうだし、写真が見られるのも楽しみだ。でも、私は乗り気になれなかった。何故なのか。
(川村さんの……せいなのかな、やっぱり。それとも何か別の理由があるのか)
 とりあえず、会ってみるしかない。会えば、このもやもやした気持ちについて、答えを出せる。そんな気がするのだった。
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