buroguのセカイ

桃青

文字の大きさ
上 下
34 / 48

32.

しおりを挟む
 川村さんから電話があったのは、突然の告白から二週間が経った日のことだった。その間、私は彼について落ち着いて考えることができたので、ブランクがあったことがありがたかった。夜中に電話に出て、彼の声を聞いたとき、意外にも私はほっとした。
「川村さん? 」
「うん、そう。美里さんはどう? 相変わらず? 」
「ええ、元気です。どうかされました? 」
「デートのお誘い……」
「はい」
「ではなくて。ちょっと話してみたくなった」
「思春期の女の子みたいですね」
「はは。明日から少しだけ休みをもらったんだ。といっても一日だけどね」
「でも今日が木曜日で、金、土、日、と続きますから、三連休になりますよ」
「そう。俺、旅に出るんだ」
「旅? 一人で? 」
「うん。ふら~っと、自由に写真を撮ってみたくなって」
「それをブログに載せるわけですか? 」
「いや、載せない。載せたくないんだ。近頃ブログに、ちょっと疲れているの」
「ブログでは、そんな気配はなかったけれど―」
「ブログをやっているとさ、常に写真を撮るとき、これはブログに使えるか、使えないかという考えが、よぎったりしない? 」
「まあ、そうですね」
「それが邪魔だと感じるようになってさ。趣味の写真が、自分のためのものと思えなくなってきてしまって」
「ブログのため、では楽しくないと? 」
「楽しかったよ。始めはね。でも人の目を気にしない、自分のやりたいようにやる写真を、今は撮りたい。そのためにはブログの存在を切り離さないと」
「それは……、自由になりたいってことなのかな」
「他人の評価からね。対して人気のあるブログでもないけれど、それでも多くの人に見てもらえればという願望はあるから、常に自分の写真を他人の目でジャッジしている。そのことに少し疲れたということだと思うな」
「本当に写真が好きだからこその悩みかもしれないですね」
「それから、純粋に旅もしたくてさ。俺、一人で知らない街を歩くのが大好きなんだよ。今回の旅はそれが第一目的で、写真はサブ。と言っても、結局は写真を沢山撮ってしまうんだろうなあ」
「どちらへ行かれるんですか? 」
「北海道。の、小樽と函館」
「写真的にバエそうな所ですね~。私は川村さんの撮った写真を見たいけれど。でもネットでは見られないんですよね」
「見せようか? 」
「えっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ぼくはヒューマノイド

桃青
現代文学
自分は人間だと思っていたのに、実はロボットだった……。人間になれないロボットの心の葛藤が、固めに、やや哲学的に語られていきます。SF色は強くなく、純粋で真摯な話です。ほぼ朝にアップします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

遅れてきた先生

kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。 大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。

泥に咲く花

臣桜
現代文学
裕福な環境に生まれ何不自由なく育った時坂忠臣(ときさかただおみ)。が、彼は致命的な味覚障碍を患っていた。そんな彼の前に現れたのは、小さな少女二人を連れた春の化身のような女性、佐咲桜(ささきさくら)。 何にも執着できずモノクロの世界に暮らしていた忠臣に、桜の存在は色と光、そして恋を教えてくれた。何者にも汚されていない綺麗な存在に思える桜に忠臣は恋をし、そして彼女の中に眠っているかもしれないドロドロとした人としての泥を求め始めた。 美しく完璧であるように見える二人の美男美女の心の底にある、人の泥とは。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...