buroguのセカイ

桃青

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30.

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「自分でさ、」
「うん」
「答えって、分かっているものなんだよね。人に聞くのは、その思いを確かめるため」
「ってことは、自分の気持ちは分かったの? 」
「何となく」
「なら、あとはケースバイケースで判断していきなよ」
「うん。友ちん、ありがと」
「いえいえ、久々の恋話、私も楽しかったです」
「レットイットゴ~、レットイットゴ~」
「ありの~ままの~」

 それから吹っ切れたように、しばらくくだらない話をして、友ちんは帰っていった。時刻を確認すると真夜中だったが、ふと思いついて、パソコンの電源を入れた。
「川村さんのブログ、川村さんのブログ……」
 小声で呟きながら、彼のブログの更新を確かめると、あのチューリップ畑で撮った写真がアップされていた。いつも彼の写真から感じるクールでシャープなイメージとは違い、温かくハッピーな魅力に溢れた、花の写真たちだった。
「こういう写真も撮れるのか……」
 そう言いつつ、添えられた文章に目を通すと、『いつもの僕とは違いますが、たまにはこんなのもいいでしょう』と書かれていて、心の変化がほんのりと読み取れた。
(以前は赤の他人だったのに、今では私に近しい人になっている、この不思議さよ。チューリップの写真を見ただけで思い出すんだ、彼と一緒にいた時間を。
 ただ楽しんで、その思い出を共有するだけでよかったのに、彼はそれ以上のものを求めてきた。その要求に私は答えるのか―)
(付き合うっていうのは、もちろん肉体関係だって含むよね。始まりはバーチャルだった。でもそこを飛び越えて、現実がどんどん私に食い込んでくる)
(それが怖い。なんだか怖いんだ)
 
 自分の人生を考えてみた。川村さんでなくとも、これから誰かと結婚するかもしれないし、子供も作るかもしれないし、両親は死んでいくだろうし、仕事を変えたり、なくなったりもするかもしれない。そのどれもがネットの世界ではできない。もちろん何かの契約をしたり、なにがしかの新しい出会いがあったりすることはあるだろう。でも実行は、結局現実世界でしかできないみたいだ。
 そこを見誤ると、まずい流れになってゆく。空想の世界で遊び、空想の世界で議論し、さあ、現実の世界に落とし込みましょう、となると、私達は実際に歩き続け、走り回り、考え続けて、こんなはずじゃなかったと叫ぶ。仮に自分がその労力を担う必要がなくても、誰かが必死になって、その労力を担っている。
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