buroguのセカイ

桃青

文字の大きさ
上 下
31 / 48

29.

しおりを挟む
「美里に男がいなかった期間って、長いものねえ。男性へ恐怖心を抱く気持ちも分かるよ。どういう所が怖いの? 」
「ひゅーっと、ひゅーっと、彼に吸い込まれそうになる」
「なんで、二回言った」
「そこが彼に惹かれるポイントで、それと同時に、怖いと思うポイントでもあるの」
「モテそうなタイプの人なのかしら」
「どうだろう。ルックスは悪くないし、性格もマイルドだから、付き合いやすいタイプじゃないかな。好きな人は好きかもしれない」
「あんまり恋に落ちたって感じじゃないんだね。ま、色恋沙汰で冷静でいられるのは、相手に対して盲目にならないし、いいことでもあると思うけれども」
「友ちん、『恋』って何? 」
「勘違い、じゃない? いい意味での」
「恋、恋……、恋……。若い頃は、好みの異性だったら誰でも、胸が痛むほどキュンキュンしたんだけどなー、二次元から三次元まで」
「恋はときめきと似ているかもね。十代の頃、私はときめきすぎて、痛いと言ってもよかった」
「十代ね。……思い出したくもない」
「美里の十代って、楽しくなかったの? 」
「精神崩壊三秒手前、って感じ。感受性が強すぎて、メンタル的に何もかもが痛くて、生きられるのが不思議なくらい大変だった」
「そうなんだ。十代の青春と呼ばれる時をさ、楽しく過ごせればよかったなあと、思った時もあるけれど、三十代、四十代、もっと言ったら五十代を、幸せに過ごせる人の方が、人生に安定感があるよね。いつまでも青春にしがみつかないし」
「私達は、安定型の方だね」
「そうだね。だから川村さんって人が、美里の安定を脅かす人だったら、己の世界の破壊神みたいなものだから、美里には不向きなんじゃないかな」
「彼は……、自立して、ちゃんと収入もあって、人間的に悪い人でもない」
「そう」
「だから私が不安になる理由は、どこにもなさそうなのに―」
「不安になるんだね、美里は」
「うん。何なんだろう、うまく言えないけれど、でも彼のことをもっと知りたいと思っている。それも確か」
「うーん、悪魔のカード」
「悪魔? 」
「タロットカードの話。美里の状況は、『悪魔』のカードの意味合いに、似ている気がしたの。私にはどうなるか想像できないけれど、そのまま行ってみれば? 」
「付き合ってみろと? 」
「いや、そこを決めるのは、美里の判断だよ~。ただ、私が言いたいのは、自分の思いを優先したら? ということ。思いのまま行ってみたら、アンサーに辿り着くのではないでしょうか~? 」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ぼくはヒューマノイド

桃青
現代文学
自分は人間だと思っていたのに、実はロボットだった……。人間になれないロボットの心の葛藤が、固めに、やや哲学的に語られていきます。SF色は強くなく、純粋で真摯な話です。ほぼ朝にアップします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

遅れてきた先生

kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。 大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。

泥に咲く花

臣桜
現代文学
裕福な環境に生まれ何不自由なく育った時坂忠臣(ときさかただおみ)。が、彼は致命的な味覚障碍を患っていた。そんな彼の前に現れたのは、小さな少女二人を連れた春の化身のような女性、佐咲桜(ささきさくら)。 何にも執着できずモノクロの世界に暮らしていた忠臣に、桜の存在は色と光、そして恋を教えてくれた。何者にも汚されていない綺麗な存在に思える桜に忠臣は恋をし、そして彼女の中に眠っているかもしれないドロドロとした人としての泥を求め始めた。 美しく完璧であるように見える二人の美男美女の心の底にある、人の泥とは。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...