buroguのセカイ

桃青

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26.

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 注文を済ますと、きっきさんはカメラの画像を確認しだしたので、私もデジカメの画像を見てみることにした。目に飛び込んでくるような鮮やかさを持つチューリップの画像に見入りながら、しばし時が流れた後、ぽつりと言った。
「私達って、変なカップルに見えているでしょうね」
「ん? 」
「素敵なお店へ入って、喋りもしないで、お互いにずーっと、カメラの画像を見ているっていう……」
「シンシンさん」
「はい」
「俺と付き合わない? 」
「……」
「駄目? 」
「う、うまく言えないです。付き合うとか、付き合わないとか、そういうのではなく、」
「俺は男と女の友情は、成立しないと思っている。だから今はっきりさせておきたいんだ。どう? 」
「あ、あっ、あの、ええ、……はい」
「はい、って? いいってこと? 」
「ええと、―いいです。物凄く戸惑っていますが」
「俺、喜んでもいいのかな」
「私も何とも言えない気持ちです」
「ふふっ。俺の本名は川村広紀だから、広紀のきを取って、ハンドルネームをきっきにしたんだ」
「私は神保美里が本名で、静かなものが好きだから、シンシンと……」
「なるほど。とにかく今度からは、本名で呼んでよ。川村さんでも、広紀くんでも、お好きなように」
「わ、分かりました」
「俺も本名で呼んで構わない? 」
「どうぞ、ご自由に」
「美里さんってさあ」
「はい? 」
「かわいいよね」
 そう言うと、ニヤッと笑って、川村さんは運ばれてきたコーヒーを味わいながら、ゆっくりと飲み始めた。

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