buroguのセカイ

桃青

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駅に着き、呑気な印象の送迎バスに別れを告げると、きっきさんは駅前に立つ看板の方へ歩いていき、私に手招きをした。私も興味をひかれて後に続くと、彼は看板に描かれた地図を眺めて、興味深い様子で言った。
「ここって、じっくり見れば色々なものがありそうだ。神社とか、博物館とか、美術館なんかもあるらしい。また来て、ゆっくり観光するのもいいかもね」
「そうですね。でも今の問題は、ご飯では」
「そうだった。シンシンさんは何を食べたい? 」
「おいしければ、もう何でもいいです。きっきさんはどうですか? 」
「俺、飯の内容よりも、いい雰囲気の店でくつろぎたいの。さっきから、あそこに見ている喫茶店の看板が、気になって仕方がないのだけれど」
「何か面白そうだ。いってみますか」
「……。シンシンさんの判断基準って、常に面白いか、面白くないかなんだな。なら、行こう」
 駅近と言える場所に存在するその店まで歩いていくと、黒がベースのすっきりした印象のお店のドアを、からりと開けた。中は半分ほど人で埋まっており、入りやすい雰囲気だ。
「どうぞ」
 小奇麗で感じの良い店員さんがそう言い、ご自由にお席へ、と言うので、私達は窓側の席に腰を落ち着けた。メニューが目の前に置かれ、互いに目を通していると、ふと視線を感じ、顔を上げたら、きっきさんがチラリと私を見ていた。その眼差しにドキリとした。
(びっくり箱だ)
 思わず私は心の中で、呟いた。彼は再びメニューに目を落とし、彼らしくなくぼそりと言った。
「俺は、コーヒー」
「……コーヒーですか? 食べ物ではなくて? 」
「こういう店では、必ずコーヒーを頼むことにしているの。俺の趣味と言ってもいいと思う」
「へー。それには何か理由が? 」
「コーヒーとかお茶って、人や空気によって、味が変わるんだよね」
「それは、淹れ方や品質の違いではなくって? 」
「淹れ方……だけではない。別の何かがある。それが俺の調査結果だね。でも時々イレギュラーがあるんだ」
「どういうこと? 」
「感じがいい店なのに、コーヒーが適当だったり、愛想が全くない、ある意味感じの悪い店なのに、やたらコーヒーがうまかったりね。想像と現実が乖離していて、それがまた面白い。あ、俺、あとナポリタンも食おう」
「なら私は……、ホットサンドと、あとコーヒーも頼んでみよう。きっきさんの予想では、ここのコーヒーは当たり? それとも外れですか? 」
「難しいけれど、ギリギリで当たりかな」
「ふふっ」
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