buroguのセカイ

桃青

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24.

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 再び元の場所へ帰ってきたボートから降りると、私はすがすがしい気分になって、きっきさんと一緒に、再びチューリップ畑をぶらつきだした。
「ああ、ボートに乗ってよかった。きっきさんは? 」
 私の問いに、彼は意味深ににやりと笑ってから、答えた。
「よかった」
「まだ、写真を撮りますか? 」
「うーん。それもいいけれど、俺、腹が減ったなー」
「あ、そういえば私も。時刻もお昼を過ぎていますね」
「向こうの方に、屋台みたいなのが何軒か出ているけれど、俺としてはちゃんとした店で、ご飯を食べたいよ。駅に、飲食店はあったっけ? 」
「私の記憶では、一、二軒はあったかも。駅の周辺をぶらつけば、もっとあるかもしれません」
「じゃあ、もう少し写真を撮った後、バスで駅に戻ろう。で、一緒にお昼を食べよう」
「私はあと少しだけ、ネタ探しをしたい。ボートに乗ってから、このメルヘンチックな場所が、だんだん面白く見えてきた」
「ふふっ」
 そんな話をしながら、改めてチューリップ鑑賞をした後、人出がだんだん多くなってきたので、花の写真撮影には向かないだろうと判断して、私達は駅に戻る送迎バスに乗り込んだ。

 きっきさんが、ボートに乗るときに見せた気前の良さから、そうか、この人は男の人だったんだと、初めて私は異性として彼を意識した。それは好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、生々しく性を感じてしまったと言っていい。
男性として、彼は私のタイプではないと思う。ルックスも性格も、魅力のある方だとは思うけれど、恋に落ちるには怖さが先に立つ、そんな印象だった。この人に、恋に落ちたくない。それは潜在的な危機意識と言ってもよかった。でも、時々ドキッとしてしまうのだ。まるでびっくり箱を開けたみたいな、コケティッシュな印象で。
ここは逃げるべきなのか、それとも真っ向から、この人と向き合うべきか。戸惑う私の隣で、彼は涼しげな顔で窓の外を眺めていた。

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