buroguのセカイ

桃青

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 暖色系のカラーがベースのチューリップの花達は、見ているだけで心が温かくなりそうだ。私は軽くチューリップに触れてみたり、奇麗な色にひかれて写真を撮ってみたり、ぼーっと眺めてはカラフルな色彩を楽しんだりしていた。私の背後で、きっきさんは自分の世界に没頭して、周囲を忘れて夢中で写真を撮っている。本当のカメラ好きってこういう感じなのかと、客観視して私はきっきさんを興味深く眺めた。
 花畑に来ている人達を観察すると、色々な人がいる。家族連れ、カメラ好き、若いカップル、年老いたカップル、何故か犬の散歩をしている人、旅人、おばちゃんの集団。みんながほっこりして幸せな時間を味わっている。きっきさんがカメラの手を止めて、私に話しかけてきた。
「俺、実は、あんまり花とかに興味なくてさ」
「そうだったんですか」
「静物とか、街並みに、どっちかと言うと惹かれるタイプなんだよ。そう思っていたんだ。今回は新しい境地へチャレンジ、といったノリで、花と向き合ってみたけれど、そうしたら……。悪くないね」
「花のパワーを感じませんか? 」
「感じる、感じる。ふわ~って、気持ちになるね。女性が花を好むのは、こんな気持ちになるからなのかな」
「それは分からないけれど、植物って、透明ですよね」
「植物が透明? 」
「私の中では、水に近いイメージなんです。澄んでいて、何かを浄化していて。お花はその透明感の上に、可愛さがある」
「なんか、女性的な物の把握の仕方」
「こんなもの、愛さないわけがない。だって……、だって、素敵なんだもの」
「それなら俺にも分かるよ。確かにお花は素敵だ。写真を撮ることで、より一層実感した」
「ああっ、きっきさん、あっちを見て。ボートが走っている! 」
「それは随分前から気付いていたよ。俺達も乗れるのかね? 」
「あそこへ行きましょう。ボートの写真を撮りたいです。絶対に面白い写真になるから」
「分かりました。付き合いましょう」
 私達が花畑を横切って、ボートが係留している場所まで歩いていくと、『ボート乗り場』と書かれた小さな看板が、ぷらんとぶら下がっていて、ハッピを着たおじさんが、ボートの上から私達を見上げつつ、声を掛けてきた。
「乗るかい? 」
「乗れるんですか? 」
 きっきさんの質問に、おじさんは頷き、言った。
「一人五百円~。五分後に出発だよ~」
 きっきさんはどうする? という表情をして私を見たが、私が乗りたいです、と答えるより先に、くるりとおじさんの方を向き、言った。
「二人乗ります。お金はここで? 」
「すぐ隣にある売り場で買ってね~。ハイ、ありがとね~」
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