buroguのセカイ

桃青

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15.

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 コーヒーを飲みながら、私はパソコンの画面と向き合っていた。カーテンはしっかりと閉ざされ、仕事が終わって自宅でくつろぐ呆然とした時間を、疲れを感じつつも楽しんでいた。
「昨日来た人数は五十人。かなり少なめだな……」
 そう言ってから、写真のフォルダを開いてみた。何か良い写真はないだろうか。奇麗で感動的な写真は、私の仕事じゃない。暗い写真は、私の趣味じゃない……。ふと、ある写真に目が留まった。それは普通のバス停の写真だったが、停留所の名前が隅に追いやられて、気付きにくいほど小さく書かれ、見たこともない目が死んだ地元のゆるキャラが、どんと看板いっぱいに描かれている。
「主張のはっきりしない看板だな~」
 ぼそぼそと呟いて、私はこの写真をアップロードすることに決めた。写真に『主役は誰だ? 』という言葉を添えて、申し訳程度に場所情報も書き込んでから、アップロードを済ませると、これで自分の役割は済ませたとばかりに、きっきさんのブログへ飛んだ。
 初めて見る写真が五枚ほどアップロードされており、どれもなかなか良い写真だった。横断歩道で、傘を差して立ち止まる人を背後から撮った写真は、誰かのPVのワンシーンのような仕上がりだったし、どこかの花壇のスナップショットは、ターシャ・テューダの庭を思い出させた。他のフォトも、どれもさりげなくていい。
「疲れる仕事の合間をぬって、撮りに行っているんだろうなあ……」
 そう言ってしばらく彼の写真に見入っていたが、ふと、きっきさんとLINEでやりとりができるようになったことを思い出した。この時間なら家にいるかもしれない。迷惑じゃないといいが、と気にしながらも、私はスマホを手に取って、きっきさんにメッセージを送ってみることにした。
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