buroguのセカイ

桃青

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 私と友ちんは座り込んで、一冊ずつ丁寧にアルバムを見始めた。写真は私の十年間ほどの日々の記録だったが、久しぶりに見ると、自分にとってこんなに面白いものもなかなかない。二十歳の時はここへ行ったのか、とか、二十五歳の時は、この程度の写真のレベルだったのか、など、伝わる事実が日記のような文章ではなく、媒体が画像なので、何事もイメージで頭に浮かんでくる。時として日記より雄弁に語る、カラフルな記憶たちだ。友ちんは写真に目を落としながら言った。
「私は美里と友達になって、十年くらい経つけどさー」
「うん」
「私の知らない美里が、写真の中に沢山いる感じ。こんな視点でものを見るんだとか、こんな感覚を持っているんだって、新たに気付くことが色々あるよ」
「実を言うと、友ちんに私の写真を見せるのは、少し恥ずかしい気持ちもあるんだ。自分をさらけ出しているみたいで」
「やっぱりそうなの」
「あ、これ、友ちんと行った長崎旅行の写真じゃないか」
「ああ! ほんと。もう五年も前の話になるのねえ。この時美里が、長崎の夜景が撮りたいって言いだしてさ、港が見渡せる美術館の屋上で、二時間も話しながら、日が沈むのを待って」
「ははは、あれは楽しかったね」
「いつもはさ、私達そんな話をしないのに、互いの人生について語りだしちゃって。そんな空気になったんだよね」
「周りに誰も人がいなかったからね。思う存分話せたよね。あの時の長崎の空気感って、物凄く良くなかった? 」
「良かった、良かった」
「ちなみに、その時に撮った写真がこちらです」
「うおー、ばっちり夜景が撮れているじゃん。これ、欲しいな」
「どうぞどうぞ、ここに何枚もあるから、好きなのを選んで。私も一枚選んで、あとは捨てる」
「たったの一枚? 本当にそれでいいの? 」
「なんか、一枚あれば、全てが思い出せる。そのことにたった今気付いて、理解してしまったの」
「言われてみると、そうかも。記憶って、連鎖的なものだからかしら」
「そうかもしれない。あと、手持ちの枚数が少ない方が、本当に大切にしたい思い出だけを残せることも、分かった」
「うん。これからの写真整理がはかどるね」
「頑張ろう」

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