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友ちんと店を後にして、道を歩き始めると、さっきまでまるで死んだように見えていた静かな街の風景が、不思議なことだが、傷つきながらも生きているように見えた。この瞬間を忘れたくなくて、思わず一枚写真を撮った。健気な街の風景と、健気に生きるお兄さんは、どこかで日本の美意識とつながる。
日本らしさは、日本のアイディンティティだ。もっと日本らしさを大切にしたいと思うが、日本らしさって何だ? と問われると、うまく答えられないのが、日本人というものだから、なかなかやっかいだ。
「ここ?」
友ちんの一言で我に返った。前方には雑木林が見え、竹の柵で囲まれている。遠目から見ても、木々は傷んでいて、心ですさんだ風が吹き始めた。私は言った。
「これって、どういう場所なの? 何の庭園?」
「私に聞かないで。とりあえず入ってみよう」
「うん」
私たちは入園料を払い、入口から中へ入ると、手渡された案内図を見ながら、ぼろっとした木々の間を歩いていった。
「どうしてこんなに荒れているんだろう。入園料を払ったから、手入れするお金はあるでしょう? ねえ、友ちん」
「私に言われても。ここで写真は撮らないの? 」
「うう、テンションが低くて、そんな気持ちにならない。……って、ああっ、スカイツリー! 」
「えっ、どこどこ」
「ここから見えるよ。これはいいねえ」
「……本当だ。なんだかスカイツリーまで寂れて見える。あんなに新しい建物なのに」
「ワビ、サビって、日本の美意識だけどさ」
「うん」
「冷静に考えると、どうしてああいうものがいいのだろうね。地味で、暗くて、さびれていて。明るさとは程遠いし」
「そう言われると、確かにこの庭園は、ワビ、サビの美学ね。単に手入れされていないだけかもしれないけれど」
「スカイツリーまで枯れさせる破壊力」
「美里、ここで一緒に写真を撮ってあげる。美里の言うバエよ、これは」
「私、またバスガイド役をやらないと。『あちらに見えるのが、スカイツリーでございます』」
「じゃあ、撮るよー。ああ、なんとも日本的な絵」
日本らしさは、日本のアイディンティティだ。もっと日本らしさを大切にしたいと思うが、日本らしさって何だ? と問われると、うまく答えられないのが、日本人というものだから、なかなかやっかいだ。
「ここ?」
友ちんの一言で我に返った。前方には雑木林が見え、竹の柵で囲まれている。遠目から見ても、木々は傷んでいて、心ですさんだ風が吹き始めた。私は言った。
「これって、どういう場所なの? 何の庭園?」
「私に聞かないで。とりあえず入ってみよう」
「うん」
私たちは入園料を払い、入口から中へ入ると、手渡された案内図を見ながら、ぼろっとした木々の間を歩いていった。
「どうしてこんなに荒れているんだろう。入園料を払ったから、手入れするお金はあるでしょう? ねえ、友ちん」
「私に言われても。ここで写真は撮らないの? 」
「うう、テンションが低くて、そんな気持ちにならない。……って、ああっ、スカイツリー! 」
「えっ、どこどこ」
「ここから見えるよ。これはいいねえ」
「……本当だ。なんだかスカイツリーまで寂れて見える。あんなに新しい建物なのに」
「ワビ、サビって、日本の美意識だけどさ」
「うん」
「冷静に考えると、どうしてああいうものがいいのだろうね。地味で、暗くて、さびれていて。明るさとは程遠いし」
「そう言われると、確かにこの庭園は、ワビ、サビの美学ね。単に手入れされていないだけかもしれないけれど」
「スカイツリーまで枯れさせる破壊力」
「美里、ここで一緒に写真を撮ってあげる。美里の言うバエよ、これは」
「私、またバスガイド役をやらないと。『あちらに見えるのが、スカイツリーでございます』」
「じゃあ、撮るよー。ああ、なんとも日本的な絵」
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