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私と友ちんは、目の前に置かれたソフトクリームを黙々と食べていた。私はハッと我に返り、スマホを手に取って、言った。
「この溶けかかったアイスの写真を撮ろう」
友ちんは不審な顔をして、言った。
「なんでそんなものを」
「『崩壊寸前』を意味している。この街と同じ」
「……ね、色んな人生があるんだね、美里」
「面白いというか、お兄さんは立派な人だと、私は思う」
「私、父が胃を壊して倒れたときに、ささやかな介護生活を、数か月したことがあるんだけど」
「あのとき友ちん、バタバタしていたね」
「そうなの。現実に直面したとき、本当にびっくりしたんだ、介護ってこんなに大変なんだって」
「―ご老人で、殆ど歩けない方や、認知症が重い方は、輪をかけて大変なはず」
「そうよね。そのとき、私心から思ったの。これだけのことを一人でやるのは間違っている。みんなで少しずつ力を合わせて、協力しあう新しいシステムがあればいいのに、って。本当に、ちょっとしたことを助けてもらえるだけで、スッて、スッて、心が軽くなるのよ」
「なんで二回言ったの」
「……そういう時に、あのお兄さんみたいな人が、知り合いだといいだろうなあ、と思った。ご近所に一人はいてほしいタイプ」
「なら彼と結婚すれば? 友ちん」
「結婚はね~、あきらめているわ。私、四十だし」
「いやいや、まだまだいけますよ、大丈夫!」
「明るく励まされても、現実は変わらない。ま、正直、結婚したくない思いもあるんだよね。男と同居して、全てを分かち合う自信がないというか、面倒って感じて」
「人生四十年の重みを感じますね、今の言葉」
「そういや美里は、私のことを、年上なのに敬っていないでしょ。『友ちん』なんてあだ名をつけられて」
「愛情、面白さ、新しさ、全てを込めた、ネーミングとなっております」
「『尊敬』がないっ! 」
「さあ。では、そろそろ庭園へ行ってみようか」
「はあ。分かったよ」
「この溶けかかったアイスの写真を撮ろう」
友ちんは不審な顔をして、言った。
「なんでそんなものを」
「『崩壊寸前』を意味している。この街と同じ」
「……ね、色んな人生があるんだね、美里」
「面白いというか、お兄さんは立派な人だと、私は思う」
「私、父が胃を壊して倒れたときに、ささやかな介護生活を、数か月したことがあるんだけど」
「あのとき友ちん、バタバタしていたね」
「そうなの。現実に直面したとき、本当にびっくりしたんだ、介護ってこんなに大変なんだって」
「―ご老人で、殆ど歩けない方や、認知症が重い方は、輪をかけて大変なはず」
「そうよね。そのとき、私心から思ったの。これだけのことを一人でやるのは間違っている。みんなで少しずつ力を合わせて、協力しあう新しいシステムがあればいいのに、って。本当に、ちょっとしたことを助けてもらえるだけで、スッて、スッて、心が軽くなるのよ」
「なんで二回言ったの」
「……そういう時に、あのお兄さんみたいな人が、知り合いだといいだろうなあ、と思った。ご近所に一人はいてほしいタイプ」
「なら彼と結婚すれば? 友ちん」
「結婚はね~、あきらめているわ。私、四十だし」
「いやいや、まだまだいけますよ、大丈夫!」
「明るく励まされても、現実は変わらない。ま、正直、結婚したくない思いもあるんだよね。男と同居して、全てを分かち合う自信がないというか、面倒って感じて」
「人生四十年の重みを感じますね、今の言葉」
「そういや美里は、私のことを、年上なのに敬っていないでしょ。『友ちん』なんてあだ名をつけられて」
「愛情、面白さ、新しさ、全てを込めた、ネーミングとなっております」
「『尊敬』がないっ! 」
「さあ。では、そろそろ庭園へ行ってみようか」
「はあ。分かったよ」
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