buroguのセカイ

桃青

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3.

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「実は俺、お金には困っていないの。親から不動産を譲り受けていてさ、そっちの家賃収入で、生活費はまかなえるんだよね」
「うらやましい話です」
「―で、ここら辺が俺の育った場所、まあ、ふるさとみたいな所でさ。人が段々出て行って、今では崩壊しそうになっている。その看取り役をやる人がいるだろうな、と思って。で、店をやる傍ら、街で起きた些細な問題解消のお手伝いをしているんだ」
「人ではなく、街の看取り役……ですか」
「街の人には、助かったって言ってもらっているよ。俺も役に立てるのがうれしいんだ。この店の経営よりも、そっちの方が本業っぽくなってきている。しばらくはこの調子でやっていくつもりさ」
 私と友ちんは、しんと黙り込んだ。言うべき言葉が見つからなかったのだ。私は暗さを振り落としてから、言った。
「それで、お兄さんは幸せですか? 」
「うん? 全然不幸じゃないよ。俺、旅が好きで、この仕事なら自営業だから、いつでも行きたいときに、旅に行けるんだ。たまに海外も行っているし、ありがたいと神様に感謝しているくらいだよ。
 ね、まだこの辺をぶらぶらするの? 」
「は、はい。その予定です」
「だったら、店の手前の通りをずっと左に行くとね、歴史のある庭園があるから、行ってみたら? あなた方だったら面白いかもしれない」
「じゃあ、そうしようか、友ちん」
「うん。そうだね。とりあえず、食べ物を食べてから……」
 私たちが話し合っていると、お兄さんはするりと店の奥へ引っ込んでいき、二人分のずんだソフトクリームを持ってきて、テーブルに置いて、笑顔で去っていった。
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