buroguのセカイ

桃青

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 紙に殴り書きのようにメニューが書かれている店ののれんをくぐると、まず店内の暗さに驚いた。人を招き入れる明るさではない。お客だって、もちろんゼロである。目を丸くして、キョトキョトしている私達だったが、そこへ片足を引きずりながら、店員であろうお兄さんがやってきて、
「好きな席にお座りください」
 とそっけなく言った。彼に店内で写真を撮る許可をもらい、少しびくつきながら、メニューを読み始めた。
「友ちん、何を頼む? 」
「食べられるものなら、何だっていい気がしてきた。ね、かき氷がある。これってバエじゃない? 」
「そういうバエは求めていない。ただかき氷のザクロ味が、気にはなっているけれど」
「ザクロ味……。焼うどんがあって……。ソフトクリーム、ずんだ味があるよ」
「この店内は、絶対に写真を撮らなくちゃ。いい感じ、今にも世界が終わりそう」
「縁起の悪い言い方はやめて」
 私が夢中になって写真を撮っていると、お冷を持ってきたお兄さんが、死んだ獣のような目で私を眺めてから、話しかけてきた。
「……インスタか何か? 」
「あ、はい。そんなところで」
「俺さ、インスタ好きじゃないんだよね。この店全然見栄えがしないけれど、それでも大丈夫かな? 」
「あっ、もう。いい味出しているので、オッケーです」
 友ちんが会話に加わってきた。
「彼女、あんまり華やかなものを求めないんですよ」
 お兄さんは目をキラリとさせ、急に乗り気になって、友ちんに言った。
「この街、暗いでしょ。消滅寸前って感じがしない? 」
「ああ、ええと、はい。確かに明るいとはいいがたい……」
「お店をやっている人も、高齢の方ばかりだよ。俺が飛び抜けて若いの」
 私は尋ねた。
「あの、お兄さんは、なぜ若いのに、ここで店を―? 」
「リアル」
「リアル? 」
「華やかな街の、華やかな店より、こっちの寂れ方にリアリティが含まれていると思う。それが気に入っている」
「言いたいことは分かります。私もそう感じるところがあるので。ただ、この人出だと……、正直経営が苦しいのでは」
「この店はね、ボランティアのようなもので」
「ボランティア」
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