42 / 52
41.
しおりを挟む
それからも2人は、次々に写真を見ていった。一見なんともない風景に見える、街角のスナップ写真や、道端に可憐に咲く名もない花の写真。田んぼや畑ののんびりした風景写真に、夜景や、一期一会である人々との出会いの、人物写真。ひろみは写真を目で追いながら、何とカラフルな写真たちなのだろうと思った。そして時々、ひろみにも見覚えのある、ハシビロコウと子供達の写真や、船上パーティの写真を見出して、自分も正道様のお役に立てたのだと思うと、心が熱くなってくるのだった。
その時ひろみは、やっと自分の本当の心が見えた。
(―今、この私の胸の内に沸き起こる思いは、間違いない、正道様に対する愛情だ。)
正道の写真にぎゅっと詰まっている、彼の優しさや愛情。そしてその思いに触れる度に、自分でも抑えきれずに溢れ出すこの気持ちは…。
ひろみはやっと悟ったのだった。
(そうだったんだ。私は…、正道様の事が好きだったんだ。しかも、心から愛している…、きっと。)
ひろみは写真を見続けながら、今沸き起こる激しい感情の奔流に、ただ身を任せていた。だが正道はそんなひろみの様子に気が付いた様子もなく、いつになく真剣に語り始めた。
「当たり前の事かもしれないけれど、写真の1番いい所は、思い出をこうやって形に残せることだよね。写真さえあれば、それをきっかけに心の奥にしまい込まれていた断片に、いつだって触れる事ができるんだ。」
「…そうですね。」
「ひろみ。」
「はい?」
すると正道はスッとひろみの事を見つめて言った。
「この写真集のタイトルを決めたよ。」
「それは、『情』ではないのですか?」
「いや、それは仮題だよ。今日、写真を選んでいくうちに、1つのフレーズがぽっかりと、僕の頭の中に浮かんできたんだ。それが何だか気に入ってね。だからこの本のタイトルは…。
人と人をつなぐもの
にしようと思う。」
ひろみはこっくりと頷くと言った。
「人と人をつなぐもの、ですか。」
「この本の読者が、僕の写真を通して、僕を通り過ぎていった人や景色の思い出に、そっと触れていく。そしてそうする事によって、その人も自分自身の、何らかの思いや感情を呼び覚ましていく―。
そう言う写真集になる事ができたなら、僕にとってそれは、成功だと言えると思う。」
「この写真集がつまり、正道様と、見知らぬ誰かを繋ぐ役割を果たすのですね?だから、人と人をつなぐもの…。
素敵なタイトルです。そしてきっと、…これは素敵な写真集になる予感がします。」
「さあ、それはどうだか。いつだって物事は、蓋を開けてみないと分からないものだからね。」
そう言いながらもにっこりと笑顔になって、ひろみに笑いかける正道だった。
☆☆☆
ひろみは写真を目で追いながら、そして時折ふと正道を見ながら、心の中でこう叫んでいた。
(本当は、…正道様は私の事を、どう思っておいでなのでしょうか?)
と。でもその問い掛けを決して言葉にする事はできず、ひろみは今喜びと悲しみと切なさをごった煮にしたような、複雑な思いを胸に抱えていた。でもその感情を押し殺し、執事らしく冷静さを装いながら、ただただ目の前の写真に、目を落としていたのだった。
その時ひろみは、やっと自分の本当の心が見えた。
(―今、この私の胸の内に沸き起こる思いは、間違いない、正道様に対する愛情だ。)
正道の写真にぎゅっと詰まっている、彼の優しさや愛情。そしてその思いに触れる度に、自分でも抑えきれずに溢れ出すこの気持ちは…。
ひろみはやっと悟ったのだった。
(そうだったんだ。私は…、正道様の事が好きだったんだ。しかも、心から愛している…、きっと。)
ひろみは写真を見続けながら、今沸き起こる激しい感情の奔流に、ただ身を任せていた。だが正道はそんなひろみの様子に気が付いた様子もなく、いつになく真剣に語り始めた。
「当たり前の事かもしれないけれど、写真の1番いい所は、思い出をこうやって形に残せることだよね。写真さえあれば、それをきっかけに心の奥にしまい込まれていた断片に、いつだって触れる事ができるんだ。」
「…そうですね。」
「ひろみ。」
「はい?」
すると正道はスッとひろみの事を見つめて言った。
「この写真集のタイトルを決めたよ。」
「それは、『情』ではないのですか?」
「いや、それは仮題だよ。今日、写真を選んでいくうちに、1つのフレーズがぽっかりと、僕の頭の中に浮かんできたんだ。それが何だか気に入ってね。だからこの本のタイトルは…。
人と人をつなぐもの
にしようと思う。」
ひろみはこっくりと頷くと言った。
「人と人をつなぐもの、ですか。」
「この本の読者が、僕の写真を通して、僕を通り過ぎていった人や景色の思い出に、そっと触れていく。そしてそうする事によって、その人も自分自身の、何らかの思いや感情を呼び覚ましていく―。
そう言う写真集になる事ができたなら、僕にとってそれは、成功だと言えると思う。」
「この写真集がつまり、正道様と、見知らぬ誰かを繋ぐ役割を果たすのですね?だから、人と人をつなぐもの…。
素敵なタイトルです。そしてきっと、…これは素敵な写真集になる予感がします。」
「さあ、それはどうだか。いつだって物事は、蓋を開けてみないと分からないものだからね。」
そう言いながらもにっこりと笑顔になって、ひろみに笑いかける正道だった。
☆☆☆
ひろみは写真を目で追いながら、そして時折ふと正道を見ながら、心の中でこう叫んでいた。
(本当は、…正道様は私の事を、どう思っておいでなのでしょうか?)
と。でもその問い掛けを決して言葉にする事はできず、ひろみは今喜びと悲しみと切なさをごった煮にしたような、複雑な思いを胸に抱えていた。でもその感情を押し殺し、執事らしく冷静さを装いながら、ただただ目の前の写真に、目を落としていたのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
スカーレット・オーディナリー・デイズ
mirage
青春
これは、中学生になった緋彩が入部した美丘中卓球部の話。緋彩が鬼顧問とキャラの濃い仲間と共に成長していく。
※微妙な用語間違いがあるかもしれません。ご了承ください。
【完結】天上デンシロック
海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより
『天まで吹き抜けろ、俺たちの青春デンシロック!』
成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。
---
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。
---
もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。実直だが未熟な響介と、博識だがトラウマを持つ律。そして彼らの間で揺れ動くもう一人の“友人”──孤独だった少年達が、音楽を通じて絆を結び、成長していく物語です。
表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。pixivでは作者( https://www.pixiv.net/users/59166272 )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
---
5/26追記:青春カテゴリ最高4位、ありがとうございました!今後スピンオフやサブキャラクターを掘り下げる番外編も予定してるので、よろしくお願いします!
メイプルハウスへようこそ
若葉エコ
青春
中学時代に経験したイジメをずっと引きずる主人公は、二十歳の大学生。
彼は、なるべく人と関わらないように生きてきた。
成人式を控えたある日、彼は中学時代のとある記憶を呼び起こす。
それが今後の彼を変えていくとは、まだ彼自身すら知らない。
果たして、故郷で彼を待ち受けるものとは──
全7話の予定です。
青のパラレルズ
白川ちさと
青春
冬野雪花はクラスでぼっちで過ごしている。同じくぼっちの美森葉瑠、ギャルメイクで雪花の元親友の浦上詩帆。三人は同じクラスで過ごすものの、言葉を交わすことはない。
花火大会の夜、空に不思議な青い光が走る。
その翌日から、詩帆の様子が変わり、きつい言葉をかけていた葉瑠に謝罪。雪花は知らない男子から告白されてしまう。決して交わることのなかった四人が過ごす夏が始まる。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる