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それからも2人は、次々に写真を見ていった。一見なんともない風景に見える、街角のスナップ写真や、道端に可憐に咲く名もない花の写真。田んぼや畑ののんびりした風景写真に、夜景や、一期一会である人々との出会いの、人物写真。ひろみは写真を目で追いながら、何とカラフルな写真たちなのだろうと思った。そして時々、ひろみにも見覚えのある、ハシビロコウと子供達の写真や、船上パーティの写真を見出して、自分も正道様のお役に立てたのだと思うと、心が熱くなってくるのだった。
その時ひろみは、やっと自分の本当の心が見えた。
(―今、この私の胸の内に沸き起こる思いは、間違いない、正道様に対する愛情だ。)
正道の写真にぎゅっと詰まっている、彼の優しさや愛情。そしてその思いに触れる度に、自分でも抑えきれずに溢れ出すこの気持ちは…。
ひろみはやっと悟ったのだった。
(そうだったんだ。私は…、正道様の事が好きだったんだ。しかも、心から愛している…、きっと。)
ひろみは写真を見続けながら、今沸き起こる激しい感情の奔流に、ただ身を任せていた。だが正道はそんなひろみの様子に気が付いた様子もなく、いつになく真剣に語り始めた。
「当たり前の事かもしれないけれど、写真の1番いい所は、思い出をこうやって形に残せることだよね。写真さえあれば、それをきっかけに心の奥にしまい込まれていた断片に、いつだって触れる事ができるんだ。」
「…そうですね。」
「ひろみ。」
「はい?」
すると正道はスッとひろみの事を見つめて言った。
「この写真集のタイトルを決めたよ。」
「それは、『情』ではないのですか?」
「いや、それは仮題だよ。今日、写真を選んでいくうちに、1つのフレーズがぽっかりと、僕の頭の中に浮かんできたんだ。それが何だか気に入ってね。だからこの本のタイトルは…。
人と人をつなぐもの
にしようと思う。」
ひろみはこっくりと頷くと言った。
「人と人をつなぐもの、ですか。」
「この本の読者が、僕の写真を通して、僕を通り過ぎていった人や景色の思い出に、そっと触れていく。そしてそうする事によって、その人も自分自身の、何らかの思いや感情を呼び覚ましていく―。
そう言う写真集になる事ができたなら、僕にとってそれは、成功だと言えると思う。」
「この写真集がつまり、正道様と、見知らぬ誰かを繋ぐ役割を果たすのですね?だから、人と人をつなぐもの…。
素敵なタイトルです。そしてきっと、…これは素敵な写真集になる予感がします。」
「さあ、それはどうだか。いつだって物事は、蓋を開けてみないと分からないものだからね。」
そう言いながらもにっこりと笑顔になって、ひろみに笑いかける正道だった。
☆☆☆
ひろみは写真を目で追いながら、そして時折ふと正道を見ながら、心の中でこう叫んでいた。
(本当は、…正道様は私の事を、どう思っておいでなのでしょうか?)
と。でもその問い掛けを決して言葉にする事はできず、ひろみは今喜びと悲しみと切なさをごった煮にしたような、複雑な思いを胸に抱えていた。でもその感情を押し殺し、執事らしく冷静さを装いながら、ただただ目の前の写真に、目を落としていたのだった。
その時ひろみは、やっと自分の本当の心が見えた。
(―今、この私の胸の内に沸き起こる思いは、間違いない、正道様に対する愛情だ。)
正道の写真にぎゅっと詰まっている、彼の優しさや愛情。そしてその思いに触れる度に、自分でも抑えきれずに溢れ出すこの気持ちは…。
ひろみはやっと悟ったのだった。
(そうだったんだ。私は…、正道様の事が好きだったんだ。しかも、心から愛している…、きっと。)
ひろみは写真を見続けながら、今沸き起こる激しい感情の奔流に、ただ身を任せていた。だが正道はそんなひろみの様子に気が付いた様子もなく、いつになく真剣に語り始めた。
「当たり前の事かもしれないけれど、写真の1番いい所は、思い出をこうやって形に残せることだよね。写真さえあれば、それをきっかけに心の奥にしまい込まれていた断片に、いつだって触れる事ができるんだ。」
「…そうですね。」
「ひろみ。」
「はい?」
すると正道はスッとひろみの事を見つめて言った。
「この写真集のタイトルを決めたよ。」
「それは、『情』ではないのですか?」
「いや、それは仮題だよ。今日、写真を選んでいくうちに、1つのフレーズがぽっかりと、僕の頭の中に浮かんできたんだ。それが何だか気に入ってね。だからこの本のタイトルは…。
人と人をつなぐもの
にしようと思う。」
ひろみはこっくりと頷くと言った。
「人と人をつなぐもの、ですか。」
「この本の読者が、僕の写真を通して、僕を通り過ぎていった人や景色の思い出に、そっと触れていく。そしてそうする事によって、その人も自分自身の、何らかの思いや感情を呼び覚ましていく―。
そう言う写真集になる事ができたなら、僕にとってそれは、成功だと言えると思う。」
「この写真集がつまり、正道様と、見知らぬ誰かを繋ぐ役割を果たすのですね?だから、人と人をつなぐもの…。
素敵なタイトルです。そしてきっと、…これは素敵な写真集になる予感がします。」
「さあ、それはどうだか。いつだって物事は、蓋を開けてみないと分からないものだからね。」
そう言いながらもにっこりと笑顔になって、ひろみに笑いかける正道だった。
☆☆☆
ひろみは写真を目で追いながら、そして時折ふと正道を見ながら、心の中でこう叫んでいた。
(本当は、…正道様は私の事を、どう思っておいでなのでしょうか?)
と。でもその問い掛けを決して言葉にする事はできず、ひろみは今喜びと悲しみと切なさをごった煮にしたような、複雑な思いを胸に抱えていた。でもその感情を押し殺し、執事らしく冷静さを装いながら、ただただ目の前の写真に、目を落としていたのだった。
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