女執事、頑張る

桃青

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 マーちゃんの驚きの告白から、その後。ひろみは悶々とした毎日を送っていた。正道に対しては、いつもと変わらず軽口を叩いて接していたのだが、その心の内はというと、なかなか複雑だった。
 こうやって正道と共に過ごす日々を送っていても、ひろみにはどうしても彼の心が見えなかった。本心が分からなかった。そして自分自身についても、本当は正道の事をどう思っているのかが、よく分からなかった。確かに初めて早坂家に来た時に感じた、正道に対する思いと、今彼に対して感じる思いは、明らかに何かが違う。今なら素直に、正道の事を“好きだ”と言えた。
 ―だが、これは恋や愛と呼べるものなのだろうか?そしてひろみの事を正道は…。
 考えれば考えるほどに、答えは迷宮入りしてゆく。ひろみは1人で出る事のない答えを探し求め、その心は彷徨っていた。
 … … …
 そんな日々を過ごしていたある日の事。ひろみな自室に籠っている正道に、3時のお茶とお菓子を運んでいた。そして部屋の扉をノックすると言った。
「正道様、3時のお茶をお持ちしました!」
「ひろみか。いいよ、入って!」
 承諾を得たひろみが、部屋の中に足を踏み入れると、中ではそこら中に写真が並べられ、ひろみを見る正道の顔には、何故か晴れやかな表情が浮かんでいた。彼は話し掛けた。
「ひろみ。」
「何でしょう、正道様?」
 机の上のファイルを押しのけて、辛うじてスペースを作り、そこにお茶とお菓子を並べながら、ひろみが正道に問い掛けると、彼はぶ厚い写真の束を掲げてみせてから、ひろみに言った。
「ついに決まったんだ。」
「ああ、今お手持ちの写真はもしかすると…。」
 ひろみがそう言いかけると、正道はその言葉の先を引き継いで言った。
「そう、『情』の写真集に入れる写真を、全て選び終えたんだ。」
 ひろみはふわっと明るい表情になって、正道に頷いてみせると、言った。
「そうでしたか。お疲れ様でした。」
「もし良かったら、ひろみも一緒に僕が選んだ写真を見てくれないか?丁度第三者の意見が聞きたいと思っていた所だし。」
「ええ、もちろん構いません。喜んで見させて頂きます。」
 そう言うとひろみは嬉しそうな様子で、正道の側まで馳せ参じると、2人は顔を付き合わせて、1枚ずつ丁寧に写真を見ていった。
 ひろみはある写真に目を留めると、正道に素直な感想を述べた。
「この写真は雪景色ですね。見ているこっちの方まで、しんしんとした寒さが伝わってきそうです。どちらでお撮りになられたのですか?」
「うんと、これは確か…。岐阜だったと思うな。ある山奥の集落の写真で…。この写真はモノクロでしょ?」
「ええ。」
「何か古さの中に、ぽつんと取り残されたような風景だったから、敢えて白黒にして、昔っぽさを強調してみたんだ。」
「なるほど。だから何となく温かみも感じますけれど、何処か寂れた印象の写真なのですね。」
「そうだね。日本人の心には、わびさびの美学があるだろう?そんな風情を感じてもらえる写真にしたくてね。結構そういう景色を求めて、あちこちに車を走らせたりしたんだ。その結果、撮る事のできた写真がこれなの。」
「そうでしたか、苦労の結晶なんですね。でも正道様、その雰囲気はこの写真に、しっかり捉えられていると思いますよ。…あ、これは富士山の写真。」
「うん、そう。」
 ひろみは目を輝かせながら言った。
「正道様と共に…、一生懸命絶景ポイントを探した、あの写真ですね?」
「そうだよ。見事な赤富士だろう?」
「こんなに、綺麗な写真が撮れたのですね。何だか感慨深いです。」
「まるで浮世絵みたいだろう?写真らしくない1枚だと思うよ。そんな所が僕は気に入っているんだ、まるで“写真”という既成の枠から、自由に飛び出したみたいで。」
「私は写真の専門家ではありませんから、偉そうな事は何も言えないですけれど、それでもこの写真は、確かに美しいです。」
「―今僕が一番聞きたいのは、そういう意見なんだよ、ひろみ。」
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