女執事、頑張る

桃青

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 そして休日2日目。ひろみは自分にとっての1番の親友である、まさちゃんという渾名の女性と会う事になっていた。そして母親に見送られながら家を出て、待ち合わせ場所である駅へと向かったひろみは、改札口で、行き交う人波を眺めながら彼女を待っていると、何処からか、自分を呼ぶ声がした。
「ひろみ!」
 ひろみが慌てて振り返ってみると、そこには細身のジーンズと、かっちりしたデザインのブラウスに身を包んだ、スレンダーな女性が立って、ひろみに向かって小さく、ぱたぱたと手を振っていた。ひろみも嬉しくなって、大きく手を振って彼女に答えた。
「まさちゃん!」
 するとまさちゃんはボブカットの髪にさっと触れながら、ひろみの側までやって来ると言った。
「久し振り。」
「大学卒業以来だよ~。まさちゃん、変わりないね。」
「ひろみは変わったな。」
「えっ、何処が?」
「髪型が。」
「ああ、これ?手入れが面倒なんで、今はショートカットで通しているの。」
「うん、そうか。」
 そう言い合うと、2人はにこにこしてしばらくお互いの顔を見合っていたが、まさちゃんははっと我に返ると言った。
「ハッ、ひろみ、いつまでもこんな事をしている場合ではない。時間は短い。思う存分デートを楽しもう。ひろみは洋服が見たかったんだろう?」
「うん、そうなの。洋服なんて今の仕事にあまり必要じゃないから、もう何ヶ月も買っていなくて…。」
「実にグッドタイミングだ。今はスプリングセールの真っ最中である。買うなら今だ。」
「そうなんだよね。じゃあ、行こうか、まさちゃん?」
「そうしよう。」
 2人はそう言い合うと、早速駅の改札口を飛び出していった。そして駅前にずっと続いているショッピングモールを歩きながら、まずはウィンドウショッピングから始めることにした。
 まさちゃんは、彼女らしい冷静な態度で、あちこちに目を配りながら、ひろみに訊ねた。
「ひろみは…、どんな服が欲しいんだ?」
「そうだね、今の季節に色々と便利なパーカーが1枚欲しい!しかも赤い色のパーカーが欲しいの。赤っていっても、色味の暗い、ボルドーっぽい色のやつ。」
「そうか。私も服が欲しいんだ。とりあえず、今の自分の格好から、新たな世界に脱却を図りたいと思っている。」
「ええ?今日のまさちゃん、凄く格好いいじゃない。ユニセックスな感じで、凛として見えて、なかなか感じがいいよ?」
「…そんな自分に飽きてきたんだ。今私が最も注目しているのはね、
 ―フリルとレースとリボンなの。勘違いしちゃった、みたいな女の子らしい格好に憧れている。」
「はは。あははははは。」
「…何故そこで笑う、ひろみ。」
「だってそんなの、全然まさちゃんの柄じゃないんだもの。想像すると笑えてきちゃって。
 ―たぶん似合わないと思うよ。ま、私は止めはしないけどね。」
「そうなんだ。この私の、あまりにもさっぱりしすぎた性格が、時に嫌になる。あ、ひろみ、そこでパーカーが70パーセントオフで売っているよ。
『ネズミの耳としっぽつきパーカー』だそうだ。…面白い。」
「嫌だよ、そんなの。だって第一に子供っぽいじゃない。なんかね、私最近とみに、大人のオンナになりたい、って思うようになってきたんだよね。」
「うん、ひろみの気持ちはきっと私にも分かる。私も近頃そう思っている。」
 2人は楽しくそんな事を話しながら、商店街を歩き続けていった。それから洋服を見たり、アクセサリーを見たり、新しく出来たショッピングモールを覗いたり、バッグやコスメも見たりして…。
 そうやってショッピングをしながら、まさちゃんと交わす会話が、また楽しかったのである。
 ひろみが、仕事柄毎日化粧をしないといけないのだけれど、でも実は、化粧の仕方がよく分かっていないんだよね、とまさちゃんに告白すると、まさちゃんはひろみをぐいぐいと引っ張って、化粧品売り場へと連れていき、その売り場の厚化粧のお姉さんに、ひろみにメークをして下さいと、深く頭を下げて頼みこんだ。その結果、ひろみは今まで滅多にした事のないような厚化粧で、町中を歩き回る羽目になった。
 一方、ひろみはまさちゃんの、いわゆるフリルとレースとリボンの、ロリータファッションの洋服探しに付き合い、試着室から固くなったフランス人形のような有様で出てきた正ちゃんを見て、彼女の醸し出すあまりにちぐはぐな空気に、ひろみは思わず吹き出したりした。そうやって時は和やかに、瞬く間に過ぎてゆき…。
 駅ビルにあるお店を一通り見て、今度は地下の食堂街を歩き出した2人だったが、ひろみはお腹を擦ると、やっと今、気付いたように言った。
「…まさちゃん、お腹空かない?私、正直かなりお腹がペコペコなんだけれど。」
「う~ん、そうだな、…時刻は午後2時か。」
「えっ、もうそんなに時間が経ってるの?」
「そうみたいだ。だが、丁度いいかもしれない。今は丁度昼時を過ぎて、店が空きはじめるころだろう?」
「そうだね。じゃあ、ゆっくりできそうなお店を見つけて、入ろうよ。」
「うむ。では今通り過ぎた韓国料理の店に入ってみるか?」
「…私もちらとそれを考えたんだけれど、でもこのお店…。店内が暗い感じで、しかも誰もお客さんがいないよ。」
「だからこそ私は興味が引かれるのだ。その原因が何なのか、つきとめたくなる。」
「まさちゃんらしいや。じゃあいい店か悪い店か、イチかバチかって感じで、とりあえず行ってみる?」
「うん、そうしよう。何だか面白くなってきたな。」
 そして2人は顔を見合わせた後、店内に入っていった。
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