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奥様は、いつもの小声とは比べ物にならない張りのある声で、正道の部屋のドアの前に立ち、中にいる正道に呼び掛けた。
「正道!ここにいるんでしょう?ひろみさんから聞きましたよ。逃げも隠れもしないで、出ていらっしゃい!ねえ!」
すると正道はバタンとドアを開いて、不審げな顔をして、中から出てきた。
「何ですか、母さん。そんな大きな声で。」
「正道、たった今、電話がありましたよ。」
「そうですか。…何だか嬉しそうですね、誰からですか?」
「真衣子さんからです。」
「…。えっ。」
すると奥様は、まるで恋する乙女のような潤んだ瞳をして、正道に語りかけた。
「きっと彼女は、あなたの事が恋しくて恋しくて仕方がないのよ。はぁ。若いって素晴らしいわ。あなたに会いたいから、また家にお邪魔してもいいですか?って…。彼女はそう言っていました。」
「母さん、あの…、ちょっと僕には用事が。」
「そんなもの、あなた自由業なんだから、どうにでもなるでしょ。だからできるだけ早く、真衣子さんと会う日を決めて、私に知らせなさい。」
「しかし、うんと、僕にも都合、というものが…。」
「いい?正道。とにかく真衣子さんと会うこと。それだけははっきりとお決めなさい。ええ、あなたの都合なるものは十分考慮してあげます。そのためにこうやってあなたに直接、話を聞きに来たんじゃないの。
決して…、逃がしはしなくてよ。」
「ううううう!」
正道は声にならない声を上げた。
… … …
そしてそれから後、正道とひろみは、正道の部屋で向き合って、話をしていた。
「…というわけで、ひろみ。再びマーちゃん襲来だよ。」
「まあ、お見合い相手なのですから、それは仕方ないですよね、正道様。」
正道はロダンの『考える人』の彫刻のような姿になりながら、苦悩に満ちて言った。
「ひろみ、どうしよう。またあの人と2人っきりになるなんて…、恐怖以外の何物でもないよ。できたらまた、ひろみに側にいて欲しいんだけれどな。」
「私は別に構わないのですが…、でも、さすがにいつも、私が2人の側にいるのはおかしいかと思います。」
「…そうだ。」
「うん?何か思いつかれましたか?」
「確か前にマーちゃんに会った時に、彼女、自分の写真を撮ってもらいたいとか、言ってなかったっけ?」
「そういえば…。そんな事を言っていたような気がします。」
正道はピンと指を1本立てて、目に輝きを取り戻しながら言った。
「そうだ、そうだよ。マーちゃんに写真を撮らせてください、って言えばいい。マーちゃん撮影会だ。そうすれば向き合って会話をしなくてもいいし、時間だって潰せるじゃないか。」
「ええ、まあ、確かにそうかもしれませんけれど。」
「―そしてひろみには、僕の写真撮影のアシスタントになってもらうんだ。」
「えっ?なんと。」
「そうすればひろみが僕の側にいても、何も不自然じゃないし、いいアイデアだと思わないか?」
「正道様、私が常に正道様のお側にいると、マーちゃんの執念深い恨みを買いそうで、正直怖いのですが。」
「大丈夫、ひろみの事は、僕が守ってみせるよ。」
「―どうやって守って下さるというのですか、正道様?」
ひろみが疑問たっぷりにそう言い返すと、正道はひろみの言葉を完全に無視し、一方的に彼女に命令した。
「ひろみ、君は僕の専任執事として、カメラマンのアシスタントとしての役割を果たすんだ!分かったかい?」
「ウウウウウ、正道様。…相変わらず、なんて勝手な。」
「正道!ここにいるんでしょう?ひろみさんから聞きましたよ。逃げも隠れもしないで、出ていらっしゃい!ねえ!」
すると正道はバタンとドアを開いて、不審げな顔をして、中から出てきた。
「何ですか、母さん。そんな大きな声で。」
「正道、たった今、電話がありましたよ。」
「そうですか。…何だか嬉しそうですね、誰からですか?」
「真衣子さんからです。」
「…。えっ。」
すると奥様は、まるで恋する乙女のような潤んだ瞳をして、正道に語りかけた。
「きっと彼女は、あなたの事が恋しくて恋しくて仕方がないのよ。はぁ。若いって素晴らしいわ。あなたに会いたいから、また家にお邪魔してもいいですか?って…。彼女はそう言っていました。」
「母さん、あの…、ちょっと僕には用事が。」
「そんなもの、あなた自由業なんだから、どうにでもなるでしょ。だからできるだけ早く、真衣子さんと会う日を決めて、私に知らせなさい。」
「しかし、うんと、僕にも都合、というものが…。」
「いい?正道。とにかく真衣子さんと会うこと。それだけははっきりとお決めなさい。ええ、あなたの都合なるものは十分考慮してあげます。そのためにこうやってあなたに直接、話を聞きに来たんじゃないの。
決して…、逃がしはしなくてよ。」
「ううううう!」
正道は声にならない声を上げた。
… … …
そしてそれから後、正道とひろみは、正道の部屋で向き合って、話をしていた。
「…というわけで、ひろみ。再びマーちゃん襲来だよ。」
「まあ、お見合い相手なのですから、それは仕方ないですよね、正道様。」
正道はロダンの『考える人』の彫刻のような姿になりながら、苦悩に満ちて言った。
「ひろみ、どうしよう。またあの人と2人っきりになるなんて…、恐怖以外の何物でもないよ。できたらまた、ひろみに側にいて欲しいんだけれどな。」
「私は別に構わないのですが…、でも、さすがにいつも、私が2人の側にいるのはおかしいかと思います。」
「…そうだ。」
「うん?何か思いつかれましたか?」
「確か前にマーちゃんに会った時に、彼女、自分の写真を撮ってもらいたいとか、言ってなかったっけ?」
「そういえば…。そんな事を言っていたような気がします。」
正道はピンと指を1本立てて、目に輝きを取り戻しながら言った。
「そうだ、そうだよ。マーちゃんに写真を撮らせてください、って言えばいい。マーちゃん撮影会だ。そうすれば向き合って会話をしなくてもいいし、時間だって潰せるじゃないか。」
「ええ、まあ、確かにそうかもしれませんけれど。」
「―そしてひろみには、僕の写真撮影のアシスタントになってもらうんだ。」
「えっ?なんと。」
「そうすればひろみが僕の側にいても、何も不自然じゃないし、いいアイデアだと思わないか?」
「正道様、私が常に正道様のお側にいると、マーちゃんの執念深い恨みを買いそうで、正直怖いのですが。」
「大丈夫、ひろみの事は、僕が守ってみせるよ。」
「―どうやって守って下さるというのですか、正道様?」
ひろみが疑問たっぷりにそう言い返すと、正道はひろみの言葉を完全に無視し、一方的に彼女に命令した。
「ひろみ、君は僕の専任執事として、カメラマンのアシスタントとしての役割を果たすんだ!分かったかい?」
「ウウウウウ、正道様。…相変わらず、なんて勝手な。」
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