ろくでなしでいいんです

桃青

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ときにロマンティック

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 順は親切にも、食べ終えた食器を洗い場まで持っていき、窓際に近づいてカーテンをはらりと開けた。そして遠い目をして闇を眺めつつ言った。
「月が出ている。空のど真ん中に上弦の月が」
「あ、本当だ」
「星子もこっちにおいでよ。一緒に天体観測しよう」
「うん」
 私は箸をおいて順の側まで行くと、彼としてはめずらしいことだが、そっと肩に手を回して、私を抱き寄せるようにした。
「俺たち色々あったね」
「よく十年近くも付き合えたよね」
「星子が全く話をできなくなったときもあったし。あの時はどうしようかと思った」
「しばらく断絶状態になりました」
「君から音信不通になったんでしょ」
「そうでした」
「俺が他の子を好きになったこともあった」
「えっ、そんなこともあったの?!」
「俺の片思いでした」
「私は順くん一筋だったのに」
「言い訳するつもりじゃないけど、社会に出ると色々あるものでさ。起承転結みたいに人生は転がらないもんだ」
「ううううう。順くんのバカ。でも心を広く持って、許してあげましょう」
「どっちみち随分昔の話だから。星子」
「何?」
「子作りしようか」
「えええ? 本当に子どもができちゃったらどうするの。私はまだ、結婚の覚悟を固めていないのに」
「俺たち、セックスに少し淡白すぎたと思うんだ」
「十回くらいはしたじゃない」
「十回くらいしかしていないとも言える」
「もし私の両親が帰ってきたらどうするの」
「……。リビドーがすっと冷めてゆく」
「フフッ、男の人って繊細なんだか、単細胞なんだか」
「話を戻すけれど、俺はさ、星子と結婚して家庭を持ったら、男らしく家族を守っていけたらなって思う」
「かっこいい」
「でもそれは理想であって。実は実際そういう生活を始めてみたら、星子の方が全てをリードしていく気がするんだな」
「そうかな。私そんなに気が強い?」
「気というか、芯というのか。星子の決断力って凄いんだよ。決めるときはバッサリと答えを出すでしょ。それってある意味リーダーシップにも通じるものがあると思う」
「そう言われて思い当たることは、一匹狼なのかもしれないけれど、私は人についていくよりも、自分で決めて、行動する方がずっと好き」
「そう、俺はそれが言いたかった」
「順くんとは長く付き合ってきたけれど、それでもお互いに知らない部分はたくさんあるよね。だから結婚すると答えを出しても、三日後にはやっぱり離婚だ、ということになる可能性もなきにしもあらず」
「結婚して三日後に別れるのはやめようよ。せめて一年は持たそう」
「せっかく結婚するんだものね。ふふふ」
「タイムリミットまであと二か月だ」
「うん、順くん」
「ん」
「ずっと側にいてくれて、私に付き合ってくれてありがとう」
「星子、死ぬの?」
「今のところその予定はないけど」
「ならそんな悲しいことは言うな。どうあっても俺らの未来はまだまだ続いてゆく」
「あと五十年くらいかな」
「きっとそう」
 会話はいったん途絶え、順が私を抱き寄せる力がふっと強まった。驚いて顔を見上げた私に、彼はこれ以上ないくらいの生真面目な顔で私を見つめ、ぎこちなく、優しくキスをしたのだった。

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