金サン!

桃青

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☆リアリティ

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「重たい。こんなに重かったっけ、金サンって」
 金サンの入った籠を持ちながら、私は一人でぶつぶつ呟きつつ、ショッピングセンターまでの道のりを歩いていました。腕を引きつらせながら、大通りを歩き、横断歩道を渡り、ゼエゼエ言って、自分の店、つまり占い部屋へ着くと、籠を地面にガッタンと置き、カードの準備を整えていきます。時計とにらめっこをしながら、お客が来るか、様子を窺っていると、頭上から声がしました。
「サ~エさん」
「……。あ、美子さん」
「少しお喋りをしてもいい? って、アレ? いつも隣にいた美しい青年は……」
「ああ、はい。彼は諸事情により、里帰りしました」
「里帰り? ……ってことは、ああ、その籠の中は、もしかして、―ネコの金サン?」
「ええ、久し振りに」
「うそー! 金ちゃんに会いたい、会いたい!」
「どうぞ、こちらへいらしてください」
 美子さんは小走りで部屋の中へ入ってきて、私が籠から出した金サンを、嬉しそうに抱きつつ言いました。
「ああ、会いたかったよ、金サン。やっぱりサエさんには、ネコの方がいいよ。あの青年に人気が集まったおかげで、サエさんの占いの影が薄くなっていたしさ」
「ふふふ、確かにそうですね」
「ニャニャニャ」
「ほら、金サンも、そう思うって言っているよ。君はハンサムよね。心なしか、あの青年に似ている気が―」
「サエさん、サエさん、サエさん!」
「あ、秋子さん。それにみどりさん。おはようございます」
「おはようございます、じゃ、ないわよ! きっ、金サンが、いなくなったんですって? ラインのあなたの書き込みを読んで、駆けつけたんだから!」
「ええ、秋子さん。ご覧の通り、今は代わりにネコが、」
「ネコ! 人間の金サンは、もう、絶対に、来ないのね?」
「ええ、みどりさん。もう二度と、来ることはないでしょう」
「あああ。どうしたらいいの。せっかくファンクラブが盛り上がりを見せた所で、金サンがいなくなってしまうなんて―」
「ファンクラブは存続させればいいのではないでしょうか。きっと金サンもそれを望んでいると思います」
「それは、どういうこと?」
「金サンは、新しいネットワークを作りたい、ということを言っていたのです。事実、あのファンクラブは、金サンの存在を超えて、みんなが深く結びついていますよね?」
 私の問いかけに、秋子さんはうんうんと頷いて、答えました。
「そう、そうなのよ。金サンが言う所の、『新しいネットワーク』的存在になっていると思うわ」
 私はさらに言いました。
「社長がいなくなっても、会社が続いていくように、金サンがいなくなっても、多少形態を変えるなりして、ファンクラブを続けていけばいいのではないでしょうか。頼りにしている人達も、それなりにいる気がしますし」
 秋子さんとみどりさんは顔を見合わせて、互いに何かを考えている様子でしたが、ふと、みどりさんが言いました。
「それが、金サンの意思なのね?」
「おそらく」
「分かったわ。やってみる。金サンの意思を継ぎましょう。確かに、ファンクラブは、私達の心の拠り所になっているの。ね、秋子さん」
「そう、大切な場所の一つね」
「フニャ」
「きっと金サンも喜ぶと思います」
「なら、私達は行くわね。これからのことを話し合いましょう、みどりさん」
「ええ。サエさんは、これからもみんなの相談に、乗ってくれるわよね?」
「ええ、もちろん」
 二人はチラリと、何とも言えない顔でネコになった金サンを見てから、決意を固めた様子で、足早に去っていきました。美子さんは私達のやり取りを面白そうに眺めていて、ぽつりと言いました。
「パワフルなおばさま方だね」
「本当にそうですね。では、美子さん。ここでひとつ、占いましょうか」
「え、何を? 私、今は特に占ってもらいたいことってないよ」
「これは世界のために占います。もちろんお金はかかりません。私達の未来は、どうなっているか」
「おお、面白そうだ。それはぜひ、私にもアンサーを聞かせて」
「はい。……。こちらのカードですね。ナンバーは二十二。黄色い花火の絵ですね」
「それって、どういう意味?」
「革命、ですね。一言で言うと。希望のある、革命」
「希望のある、革命」
「難しい時代ですが、ガンジーやキング牧師が望んだような、穏当な革命がじんわりと起こってきます。行きつく先は、より進んだ世界であり、真に平等な世界です。
 逃げ出したいほどの困難を感じる人も多くいるでしょう。でもその先に待っているものは幸福です」
「ううむ、そうか。とりあえず頑張れば、みんなに等しく、真の平等と幸福がやってくるってこと?」
「まあ、そんなところです」
「いいこと聞けたよ。なら、今日も一日頑張るか! 私はお仕事に戻るね」
「お仕事に幸運を」
 美子さんはうーんと伸びをしながら、自分のお店へ戻っていきました。私はにっこりと笑ってから、金サンの頭を撫で、外でうろうろしながら順番を待っている女性に、朗らかに声を掛けました。
「お待たせしました。どうぞ、お入りください」 
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