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「ついに六十人突破よ!」
秋子さんはバンッとテーブルを叩いて、そう言いました。私はふとシャッフルの手を止め、訊ねました。
「ファンクラブのメンバーが、ですか?」
「そう! 金サンに会いたいと願っている人達が、こんなにいるってことなの」
興奮気味のみどりさんの言葉に、金サンは素直に答えました。
「僕、よく分かりません」
おみくじ占いを言い分にして、やってきた秋子さんとみどりさんのコンビは、すぐに目を潤ませ、口々に言いました。
「なんて素直なの」
「おごらない子ね。いい子だわ」
私は心の内で小さく溜め息をついてから、会話に参加しました。
「グループLINEは、ちゃんと覗くようにしていますけれど、そんなに人数が増えていたなんて」
「そうなのよ。LINEのやりとりでも、サエさんの占いに対するリクエストや、質問が、増えてきていてねえ」
「それは知っています。私も、私に向けられた質問に対して、できる範囲で答えるようにしていますし」
秋子さんにそう答えると、みどりさんが感慨深い様子で言いました。
「私達は、何ていうのか、元々『占い』をテーマにして集ったメンバーじゃない? だから、悩み事を共有することも多いのよね。そのおかげで結びつきが強くなっているということもあるのだけれど。この間のファンクラブの集いで、友達になった人達もいるほどよ」
「よかったです」
金サンはむふんと笑って言いました。みどりさんは金サンに微笑みかけて、言葉を続けました。
「みんな、金サンをきっかけにして、繋がったんだから。金サンのパワーは偉大なり! って所かしら。笑い事じゃ済まされない深刻な悩みを持つ方もいて、そういう人達をサポートできないかしらって、今考えている所なのよ。ね、秋子さん」
「そう。ファンみんなの力でね。だからサエさんも力になってくれないかしら」
「そういうことなら、お役に立ちたいと思います。ただ、手に負えない場合は、専門家の力が必要になることもあるはず……」
みどりさんは急に気難しい顔になり、悩ましげに言いました。
「そこなのよねえ。ファンクラブを、お悩み相談所というか、心の負担になるような場所にはしたくないじゃない? ね、金サンはどう思う?」
「楽しめばいいと思う」
「ん?」
「旅行に行くとか、食事に行くとか、コンサートに行くとか、辛くて悲しいことじゃなくて、楽しいことだけ考えるようにすればいいんだ」
「ファンクラブを、ポジティブな場所にしてください、って言いたいのよね、金サンは」
私が説明を付け足すと、金サンは大きくコクリと頷いてから、言いました。
「サエは、人を明るくするために、占いをしています。そのことを僕は、よく知っている。だからファンクラブも、そういう場所であってほしい。それが、僕の願いです」
みどりさんと秋子さんは、しばし無言で見つめ合い、納得した様子で言い合いました。
「そうか」
「そうよね」
「基本、ポジティブよ!」
「私達も、できないことはできないものね」
私は二人に言いました。
「そこは専門家に頼りなさいと、はっきりアドバイスすればいいのではないでしょうか。その判断については多分、私ができると思います。今まで色々な人を占ってきた経験がありますので」
秋子さんはうん、と頷いてから、決意した様子で言いました。
「頼りになるわ、サエさん。なら、その方針で行ってみることにするわね。それでいいでしょう、みどりさん?」
「ええ。サエさんのお力をお借りすることになるかもしれませんが」
「ええ、私は構いません」
「なら、この話はここまでにしましょうか。で、占いの結果はどうなの?」
「ああ、はい。ええと、こちらですね。このカードの意味は……」
秋子さんはバンッとテーブルを叩いて、そう言いました。私はふとシャッフルの手を止め、訊ねました。
「ファンクラブのメンバーが、ですか?」
「そう! 金サンに会いたいと願っている人達が、こんなにいるってことなの」
興奮気味のみどりさんの言葉に、金サンは素直に答えました。
「僕、よく分かりません」
おみくじ占いを言い分にして、やってきた秋子さんとみどりさんのコンビは、すぐに目を潤ませ、口々に言いました。
「なんて素直なの」
「おごらない子ね。いい子だわ」
私は心の内で小さく溜め息をついてから、会話に参加しました。
「グループLINEは、ちゃんと覗くようにしていますけれど、そんなに人数が増えていたなんて」
「そうなのよ。LINEのやりとりでも、サエさんの占いに対するリクエストや、質問が、増えてきていてねえ」
「それは知っています。私も、私に向けられた質問に対して、できる範囲で答えるようにしていますし」
秋子さんにそう答えると、みどりさんが感慨深い様子で言いました。
「私達は、何ていうのか、元々『占い』をテーマにして集ったメンバーじゃない? だから、悩み事を共有することも多いのよね。そのおかげで結びつきが強くなっているということもあるのだけれど。この間のファンクラブの集いで、友達になった人達もいるほどよ」
「よかったです」
金サンはむふんと笑って言いました。みどりさんは金サンに微笑みかけて、言葉を続けました。
「みんな、金サンをきっかけにして、繋がったんだから。金サンのパワーは偉大なり! って所かしら。笑い事じゃ済まされない深刻な悩みを持つ方もいて、そういう人達をサポートできないかしらって、今考えている所なのよ。ね、秋子さん」
「そう。ファンみんなの力でね。だからサエさんも力になってくれないかしら」
「そういうことなら、お役に立ちたいと思います。ただ、手に負えない場合は、専門家の力が必要になることもあるはず……」
みどりさんは急に気難しい顔になり、悩ましげに言いました。
「そこなのよねえ。ファンクラブを、お悩み相談所というか、心の負担になるような場所にはしたくないじゃない? ね、金サンはどう思う?」
「楽しめばいいと思う」
「ん?」
「旅行に行くとか、食事に行くとか、コンサートに行くとか、辛くて悲しいことじゃなくて、楽しいことだけ考えるようにすればいいんだ」
「ファンクラブを、ポジティブな場所にしてください、って言いたいのよね、金サンは」
私が説明を付け足すと、金サンは大きくコクリと頷いてから、言いました。
「サエは、人を明るくするために、占いをしています。そのことを僕は、よく知っている。だからファンクラブも、そういう場所であってほしい。それが、僕の願いです」
みどりさんと秋子さんは、しばし無言で見つめ合い、納得した様子で言い合いました。
「そうか」
「そうよね」
「基本、ポジティブよ!」
「私達も、できないことはできないものね」
私は二人に言いました。
「そこは専門家に頼りなさいと、はっきりアドバイスすればいいのではないでしょうか。その判断については多分、私ができると思います。今まで色々な人を占ってきた経験がありますので」
秋子さんはうん、と頷いてから、決意した様子で言いました。
「頼りになるわ、サエさん。なら、その方針で行ってみることにするわね。それでいいでしょう、みどりさん?」
「ええ。サエさんのお力をお借りすることになるかもしれませんが」
「ええ、私は構いません」
「なら、この話はここまでにしましょうか。で、占いの結果はどうなの?」
「ああ、はい。ええと、こちらですね。このカードの意味は……」
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