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29.自由ということ
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「すっかり遅くなってしまった」
私はそう独り言を言い、自宅の玄関のベルを鳴らしました。金サンはちゃんと家まで帰ることができたでしょうか? するとドアが、がばっと開き、勢いよく金サンが飛び出してきて、言いました。
「サエ、お帰り」
「ただいま。よかった、ちゃんと帰れたのね」
「入って、入って」
「何? どうしたの」
誘われるがまま、玄関に足を踏み入れると、もわんと何かの匂いがしました。何をしでかしたのだろうと思いながら、リビングまで行くと、テーブルの上にドン、と、鍋が置いてあって……。金サンはうろうろしながら、(それはネコとして興奮しているということです)言いました。
「僕、料理をしたんだよ。自分と、あと、サエのために」
「……。ということは。その鍋がもしかして」
「そう! 僕の作った料理」
「どうやって作ったの? 作り方は分かった?」
「いつもサエのやり方をじっと見ていた。だから大丈夫。水を入れて、火をつければ、料理ができるでしょ」
「まあ、そうだけれど。鍋のふたを開けるわね」
「うん、いいよ」
不安を胸に、ふたを取ると、中には大量の茹でた肉と、煮崩れした魚が入っていました。私は大きなため息とともにふたを閉じ、でも金サンを責める気にもならず、彼に言いました。
「やってみたかったのでしょうね。今日の夕飯はこれだわ。金サンは食べたの?」
「うん、少し。肉と魚の味がして、いい感じ」
「見たまんまね。もったいないから、私も食べるわ」
「そうして、そうして」
私はクローゼットへ行って、着替えを済ませ、台所で調味料と食器を準備して、テーブルにつき、目がキラキラした金サンと共に鍋を囲んで、言いました。
「それじゃ、食べようか」
「うん、うん」
私は黙々と、しばらく煮ただけの肉と魚を、何とも言えない気持ちで食べていましたが、金サンは興奮を抑えきれない様子で、話し出しました。
私はそう独り言を言い、自宅の玄関のベルを鳴らしました。金サンはちゃんと家まで帰ることができたでしょうか? するとドアが、がばっと開き、勢いよく金サンが飛び出してきて、言いました。
「サエ、お帰り」
「ただいま。よかった、ちゃんと帰れたのね」
「入って、入って」
「何? どうしたの」
誘われるがまま、玄関に足を踏み入れると、もわんと何かの匂いがしました。何をしでかしたのだろうと思いながら、リビングまで行くと、テーブルの上にドン、と、鍋が置いてあって……。金サンはうろうろしながら、(それはネコとして興奮しているということです)言いました。
「僕、料理をしたんだよ。自分と、あと、サエのために」
「……。ということは。その鍋がもしかして」
「そう! 僕の作った料理」
「どうやって作ったの? 作り方は分かった?」
「いつもサエのやり方をじっと見ていた。だから大丈夫。水を入れて、火をつければ、料理ができるでしょ」
「まあ、そうだけれど。鍋のふたを開けるわね」
「うん、いいよ」
不安を胸に、ふたを取ると、中には大量の茹でた肉と、煮崩れした魚が入っていました。私は大きなため息とともにふたを閉じ、でも金サンを責める気にもならず、彼に言いました。
「やってみたかったのでしょうね。今日の夕飯はこれだわ。金サンは食べたの?」
「うん、少し。肉と魚の味がして、いい感じ」
「見たまんまね。もったいないから、私も食べるわ」
「そうして、そうして」
私はクローゼットへ行って、着替えを済ませ、台所で調味料と食器を準備して、テーブルにつき、目がキラキラした金サンと共に鍋を囲んで、言いました。
「それじゃ、食べようか」
「うん、うん」
私は黙々と、しばらく煮ただけの肉と魚を、何とも言えない気持ちで食べていましたが、金サンは興奮を抑えきれない様子で、話し出しました。
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