金サン!

桃青

文字の大きさ
上 下
25 / 38

24.進化

しおりを挟む
 第一回のファンミーティングは成功しました。が、金サンのファンによって作られたラインのグループは、それから独自な組織へと、次第に進化していきました。私はメインの存在ではないけれど、ラインで軽く、ファンの人達の相談に答えたりすることもあり、それがきっかけで、その後本格的な占いをするために、私の占い部屋を訪れてくれるという、有難いパターンが増えたりもしました。
 さらに、みんなで相談を共有することで、新たな相談が生まれたり、またはファンの人達で支え合って、新たな解決策を導き出すと言ったことも、頻繁に起こるようになっていき―。私達のネットワークは、より強化されていったのです。

 一方、はじめさんともメールでやり取りするようになり、私は彼について、あくまで文章上だけれども、少しずつ知っていくことになりました。たまに電話が掛かってくることもあって、そんなとき、彼の声を聞くとホッとしてしまう―。その話を金サンにすると、彼は流し目で私をじいっと見るのです。いかにも、僕はちゃんと分かっているんだからね、と言いたそうでした。

 そんなある日の夜、私と金サンがみすぼらしいテーブルについて、質素な遅い夕食をとっている所へ、電話が掛かってきました。
「はい」
「サエさんか? 三条はじめだが―」
「あ、はい。どうされましたか?」
「どうかしないと、電話を掛けちゃいかんのか」
「そんなことはありません」
「今度、あなたと、デートをしたい」
「はあ」
「……。イヤか?」
「いえ、そんなことは。ただ唐突だなあ、と思って。少し驚いています」
「そうか。ではどこへ行きたい?」
「私が、決めるんですか? じゃあ、そうだな、自然があるところがいいな」
「山登りとか?」
「そんな大げさなものでなくって、例えば緑の多い公園へ行くとか」
「そんなことでいいのか」
「ええ。公園でピクニックをするとか、楽しそうだと思いますが」
「では○月△日に、××駅に、午後1時に……。この日程だと、サエさんの都合はどうだ? 」
「その日は午後の仕事はお休みにします。自営業なので、休もうと思えばいつでも休めますから」
「そこは私も似たようなものだ。ではこれでよいな?」
「ええ」
「また会おう!」
 そこで電話はブツッと切れました。まん丸の目で私を見ていた金サンは、私に問い質してきました。
「三条はじめから?」
「そう」
「なんて言っているの?」
「そうね、デートのお誘いみたい。あんまりロマンティックな感じではなかったけれど」
「ロマンティックって何なの」
「甘い夢みたいなものよ」
「そんなものより、はじめさんとがっちり結びつくことが、サエにとっては大事なんだよ」
「人と人との繋がりを―」
「そうそう、それが大事」
「……。私もそうだけれど、この、はじめさんも、何か孤独そうな人よね。そんな気がする」
「ネコもベースは独り者なんだ。そうできている」
「ネコはそれで生きていけるから、特に問題はないのよ。とりあえず行ってくるわ」
「そうして」
 私の胸の中では、様々な思いが去来していきました。私は占いで、多くの恋愛相談に乗ってきたはずなのに、自分の恋愛のこととなると、案外何も分からないものだな、と実感しました。きっと理解するためには、体験するしかないのです。はじめさんとの関係が、恋の夢から現実へ、移行し始めました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

りぷれい

桃青
ライト文芸
 突然の母の死から一年。退屈な父との二人暮らしをしているとき、あるきっかけで、母が少しの間、生き返ることに。実は生前、私は母に複雑な思いを抱いていた。そのわだかまりを解きほぐすように、人生のやり直しが始まる。ちっちゃい奇跡のお話です。

風月庵にきてください 開店ガラガラ編

矢野 零時
ライト文芸
正夫のお父さんはお母さんと別れてソバ屋をやりだした。お父さんの方についていった正夫は、学校も変わり、ソバ屋の商売のことまで悩むことになった。 あ~、正夫とお父さんは一体どうなるのだろうか?

COVERTー隠れ蓑を探してー

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
潜入捜査官である山崎晶(やまざきあきら)は、船舶代理店の営業として生活をしていた。営業と言いながらも、愛想を振りまく事が苦手で、未だエス(情報提供者)の数が少なかった。  ある日、ボスからエスになれそうな女性がいると合コンを秘密裏にセッティングされた。山口夏恋(やまぐちかれん)という女性はよいエスに育つだろうとボスに言われる。彼女をエスにするかはゆっくりと考えればいい。そう思っていた矢先に事件は起きた。    潜入先の会社が手配したコンテナ船の荷物から大量の武器が発見された。追い打ちをかけるように、合コンで知り合った山口夏恋が何者かに連れ去られてしまう。 『もしかしたら、事件は全て繋がっているんじゃないのか!』  山崎は真の身分を隠したまま、事件を解決することができるのか。そして、山口夏恋を無事に救出することはできるのか。偽りで固めた生活に、後ろめたさを抱えながら捜索に疾走する若手潜入捜査官のお話です。 ※全てフィクションです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)

菜っぱ
ライト文芸
ガリ勉チビメガネの、夕日(ゆうちゃん) 見た目元気系、中身ちょっぴりセンチメンタルギャル、咲(さきちゃん)   二人はどう見ても正反対なのに、高校生になってもなぜか仲の良い幼なじみを続けられている。 夕日はずっと子供みたいに仲良く親友でいたいと思っているけど、咲はそうは思っていないみたいでーーーー? 恋愛知能指数が低いチビメガネを、ギャルがどうにかこうにかしようと奮闘するお話。 基本ほのぼのですが、シリアス入ったりギャグ入ったりします。 R 15は保険です。痛い表現が入ることがあります。

【完結】20-1(ナインティーン)

木村竜史
ライト文芸
そう遠くない未来。 巨大な隕石が地球に落ちることが確定した世界に二十歳を迎えることなく地球と運命を共にすることになった少年少女達の最後の日々。 諦観と願望と憤怒と愛情を抱えた彼らは、最後の瞬間に何を成し、何を思うのか。 「俺は」「私は」「僕は」「あたし」は、大人になれずに死んでいく。 『20-1』それは、決して大人になることのない、子供達の叫び声。

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

re-move

hana4
ライト文芸
 薄暗くしてある個室は、壁紙や床、リクライニングソファーまで、全てブラウンに統一してある。  スイート・マジョラムをブレンドしたアロマが燻り、ほんのりと甘い香りに 極小さい音量で流れるヒーリング音楽、滞在しているだけで寝てしまいそうな空間。  リクライニングソファーに横たわる彼に、至極丁寧にタオルが掛けられた。  一つ大きく深呼吸をしてから、タオル越しの額に両手を重ね じんわりと自分の体温を伝える。ゆったりとしたリズムにのせて、彼の感触を指先で捉える……  すると、お互いの体温は融け合いはじめ、呼吸までもが重なり──  やがてその波は徐々に緩急を失くしてゆき、穏やかで抑揚のない寝息へとかわった。  目を閉じると、初めて“みる”ストーリーが、走馬燈のように流れ始める…… *  橘(たちばな)あかりはドライヘッドスパサロン『re-move』 で、セラピストとして働いている。  頭を揉み解す事で疲労を回復させながら、お客様を究極の癒しへと誘うドライヘッドスパ。  この仕事が大好きなあかりだったが、彼女には誰にも話していない能力がある。  マッサージを施しているあいだ、彼女には『お客様の過去』が走馬灯のようにみえている。  そして、その人の後悔があまりにも強い場合には……  その『過去』へと、憑依することができた。  その日のお客様は、スタイリッシュなサラリーマン【武田慎吾様】  武田様の『過去』に憑依したあかりは、その日を彼と共にやり直そうとして……  ──疲労と後悔を癒すドライヘッドスパサロン『re-move』 へようこそ。

処理中です...