金サン!

桃青

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 その日占いに訪れた方達は、なぜか占いでなく、金サンに夢中になっていました。皆、金サンがハンサムだと言い、彼が発する一言一言にうっとりするのでした。
 仕事を早めに切り上げて、私と金サンはショッピングモールへ向かい、買い物をすることにしました。まさか自分に、男物のパンツを必死に探す日が訪れるとは。
 金サンは溢れ出す好奇心をむき出しにしながら、ちょこちょことあちこちを歩き回っていました。その姿が私の頭の中で、ネコの金サンと重なります。彼に衣類を選ばせると、匂いがいいと言って、(私には全く分からないけれど)見事に高い物ばかりを選び出すから、私は似たデザインの物を安い店で買い、不服そうな金サンに、慰めるようにこう言いました。
「お金持ちになったら、高いのを買ってあげるから」
「いつなるのさ」
「う~ん、三十年後くらいかな」
「僕、生きていないよ。人生って、今が大切なんだよ」
「何かネコじみた発言。短絡的に考えるのね」
 ざっと必要な物を買い揃えて、最後に食料品のスーパーに行くと、金サンはずらりと並ぶ魚や肉を凝視し、今にもシャーッと鳴きそうでした。私は安い肉と安い野菜を買って、ようやく帰途につくことにしました。
 家へ向かう道を歩いているとき、金サンは悲しそうな声で、
「サエ、おなか空いた。何か食べたいよ」
 と儚げに言うので、私は少し焦り、自分のおやつとして買ったかっぱえびせんを差し出して、
「かっぱえびせん、食べる?」
 と優しく聞くと、バリッと袋を開け、ポリポリポリ、ポリポリポリポリと、物凄い勢いで食べ始め、目をキラッと輝かせて、
「これおいしい!」
 と叫びました。えびの風味と軽快な歯触りが、どうやらお気に召したようです。
 私は暗くなった夜道を歩きながら、隣に金サンの存在を感じ、ふと、幸せかも、と思いました。人生の先は闇のように先が見えないけれど、今幸せだったらそれでもいい。そんな金サン的な考え方も、悪くないものだと思ったりしました。

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