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3.ミラクル
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金サンと私は、いつも布団で一緒に寝ています。作り置きしておいた夕食を食べて、歯を磨き、シャワーで垢を落とし、スマホでニュースを見ながら眠るのが、お決まりの私のナイトルーティンです。その日もそうでした。何の変化もなくそれらをこなし、私は布団にもぐり、金サンは私の足元でくるんと丸まって、気持ちよさそうに寝ていました。
―が。
次の日の朝。パチリと目を覚ますと。
私の隣で裸の若い男が寝ていたのです。
私はドスの利いた声で叫びました。
「ギィアアアアアアア」
は、裸の男はむくりと体を起こし、つぶらな瞳で私を見て、私の名を呼んだのです。
「サエ」
「ぎゃあああ、あんた誰よ! 変態? それとも異常者か犯罪者?」
その男はうーんと伸びをすると、あくびをかみ殺しつつ、爽やかに言いました。
「僕は金です」
「キ? キン? 金××?」
「僕は、ネコの金サンです」
「金サン? 金サンって……、あの灰色の毛で、金の瞳を持つ―」
「そうです」
「私の飼い猫の―」
「そうだよ。おはよう、サエ」
「んなわけない! あなたはどこからみても人間だもの!! と、とにかく服……、服を着て。どこに服があるの。とりあえず私のやつを持ってくるから……」
「このままじゃ駄目?」
「駄目っ!」
わたしは大慌てで布団からバタバタ飛び出し、Tシャツとパンツとジーンズを持ってきて、彼の裸を見ないようにしながら叫びました。
「着て!」
「僕、着たくないな」
「追い出されたくないなら、着なさい!」
「分かったよ」
この時初めて、自分が太っていることを神に感謝しました。私のサイズならおそらく男の人でも着られるはず……。おそるおそる謎の男性に目をやると、彼は非常識でない姿になっていて、にっこりと笑って私を見ていました。私はしばし魚のような状態になり、無言で口を開いたり閉じたりしていましたが、ぽそっと、思ったことを口にしました。
「……ほんとに、金サン?」
「ウン」
「ネコの?」
「今は人間だけどね」
「ああ~、もう。どうしてこんなことになっているのよ。誰か事情を説明してよ」
「それは僕が説明できるかもしれない」
「……。何だかよく分からないけれど、話してみて」
「あのね、サエって孤独に生きていて、話し相手もなく、一人で色々悩んだりしていたでしょ。だから僕が面倒を見てあげなきゃと思ったの。でも、ネコの姿じゃ何もできない。そこで僕は祈った。どうにかしてくださいと、毎日強く願っていたの。そうしたら―」
「人間の姿に?」
「なっちゃったの」
「つまり、私を助けるために、その姿になったの?」
「うん、そうみたい」
「金サンが、長靴をはいたネコみたいに、私を導くために―」
「何それ」
「そうか……って、やっぱりそんなことあるわけない!」
「サエ、僕、おなか空いた」
「あああ、あなた私の家に居候するつもりなのね?」
「だってサエの飼い猫だもん」
「食費が、……食費が倍になる。ただでさえ余裕のない経済状況なのに……。
そういえばネコの金サンがいないな」
「僕が金サンだから」
「うう……。はあ、分かった。とりあえず朝食を作ってくるわ」
「うん!」
私は巨大な困惑に包まれて、台所へ向かいました。
―が。
次の日の朝。パチリと目を覚ますと。
私の隣で裸の若い男が寝ていたのです。
私はドスの利いた声で叫びました。
「ギィアアアアアアア」
は、裸の男はむくりと体を起こし、つぶらな瞳で私を見て、私の名を呼んだのです。
「サエ」
「ぎゃあああ、あんた誰よ! 変態? それとも異常者か犯罪者?」
その男はうーんと伸びをすると、あくびをかみ殺しつつ、爽やかに言いました。
「僕は金です」
「キ? キン? 金××?」
「僕は、ネコの金サンです」
「金サン? 金サンって……、あの灰色の毛で、金の瞳を持つ―」
「そうです」
「私の飼い猫の―」
「そうだよ。おはよう、サエ」
「んなわけない! あなたはどこからみても人間だもの!! と、とにかく服……、服を着て。どこに服があるの。とりあえず私のやつを持ってくるから……」
「このままじゃ駄目?」
「駄目っ!」
わたしは大慌てで布団からバタバタ飛び出し、Tシャツとパンツとジーンズを持ってきて、彼の裸を見ないようにしながら叫びました。
「着て!」
「僕、着たくないな」
「追い出されたくないなら、着なさい!」
「分かったよ」
この時初めて、自分が太っていることを神に感謝しました。私のサイズならおそらく男の人でも着られるはず……。おそるおそる謎の男性に目をやると、彼は非常識でない姿になっていて、にっこりと笑って私を見ていました。私はしばし魚のような状態になり、無言で口を開いたり閉じたりしていましたが、ぽそっと、思ったことを口にしました。
「……ほんとに、金サン?」
「ウン」
「ネコの?」
「今は人間だけどね」
「ああ~、もう。どうしてこんなことになっているのよ。誰か事情を説明してよ」
「それは僕が説明できるかもしれない」
「……。何だかよく分からないけれど、話してみて」
「あのね、サエって孤独に生きていて、話し相手もなく、一人で色々悩んだりしていたでしょ。だから僕が面倒を見てあげなきゃと思ったの。でも、ネコの姿じゃ何もできない。そこで僕は祈った。どうにかしてくださいと、毎日強く願っていたの。そうしたら―」
「人間の姿に?」
「なっちゃったの」
「つまり、私を助けるために、その姿になったの?」
「うん、そうみたい」
「金サンが、長靴をはいたネコみたいに、私を導くために―」
「何それ」
「そうか……って、やっぱりそんなことあるわけない!」
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「あああ、あなた私の家に居候するつもりなのね?」
「だってサエの飼い猫だもん」
「食費が、……食費が倍になる。ただでさえ余裕のない経済状況なのに……。
そういえばネコの金サンがいないな」
「僕が金サンだから」
「うう……。はあ、分かった。とりあえず朝食を作ってくるわ」
「うん!」
私は巨大な困惑に包まれて、台所へ向かいました。
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