おんなのこ

桃青

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46.お姫様ごっこの

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 俊とオキヨは室内着を着て、夕方の景色を眺めていた。外の世界では、全てがオレンジ色に染まっていく。オキヨも、俊も、オレンジ色になった。男と女としてやるべきことをやったので、二人は落ち着いた気持ちになっていた。俊はぼそりと言う。
「オキヨ。もうすぐここから、オキヨの好きな夜景が見えるよ」
「本当ね。ロマンティックになってきたわ」
「俺達さ、男と女だし、作りも性格ももちろん違うけれど、何かが似ていると思う」
「あら、そう? どんな所が? 」
「そうだな、一言で言うなら、『軽さ』かな」
「ああ。そう、私が俊の好きな所って、その軽い所なの」
「本当? 俺、浮気しちゃったけれど」
「もうそれは言わなくていいわ。私は、自分の軽さについて自覚がないの。第一に体重がヘビーでしょう」
「うーん、何ていうかな。例えば俺が、こっちに行きたいぞと言った時に、オキヨだったらフワッとついて来てくれそうな軽さがある。よく愚痴や文句ばかり言って、腰が重い女の人っているじゃない。それがないのが、オキヨについていいと思っている所。一番好きな所でもある」
「ふーん、そう。言われてみればそうかもしれないわね。私ね」
「うん」
「結婚って、ロマンティックなものだと思っていたの。好きな男の人とずっと一緒にいられるし、可愛い子供と、愛くるしいペットがいて、みたいな」
「ふん。幼稚園児レベルの家庭像」
「でも、俊と築いていく未来は、生々しそうね。お金! 愛憎! 健康! みたいな」
「健康って、何」
「全てのベースであり、一番大切なものです」
「まあそうだとしても、オキヨとならきっと楽しいね」
「本当? 」
「ほら、窓の外を見て。明かりが点ったよ」
 オキヨはフッと外を眺めた。外界はすっかり暗くなり、闇ときらめきが同居する、都会の夜の景色へと変わっていた。オキヨは思い出したように言った。
「結婚指輪は買ってくれる? 」
「もちろん。多分高いのは買えないと思うけれど」
「私ね、指輪はとてもシンプルなのがいい。値段も十万いかないくらいのやつ。数万円のがいいの」
「それには、何か理由がある? 」
「高い指輪は結婚に縛られていることを象徴しているみたいで、いや。付けていて、軽さがあるのがいい」
「同感だな。俺もそういうのがいい。じゃ、これからちょっと出掛けようか。夕飯もまだ食べていないし」
「ご飯ついでに、指輪も見てみる? 」
「今そんなにお金、ないよ」
「見るだけ……、ってわけにはいかないのかしら」
「俺もやりたいことがあって。オキヨの望み通り、夜景を見ながら、ワインをチンチン鳴らそうとしていたんだけれど」
「レストランの予約も取っていないのに? 」
「そっか。無理っぽいな」
「私、夕食は回転ずしがいいわ。何だか今日は、お腹いっぱい食べたい気分なの。だったら、コスパのいい物がいいわよね」
「ふふっ。なら、そうしますか」
「今日はダイエットを一時停止にします」
「オキヨの望みのままに」
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