37 / 51
35.ヒトとヒト
しおりを挟む
カウンターでない、奥にある二人用のテーブル席に腰を落ち着け、注文を済ますと、西崎さんは言った。
「遠慮なく食べてください。僕も今日は食べます」
「あの、私、太ってて。一応ダイエット中なので、たくさん食べるわけには、」
ナツの言葉に西崎さんは急速に複雑な表情を見せた。そして言った。
「太っていないじゃないですか」
「太っています! 標準体重より十二キロも重いんです。服を普通のお店で買おうとすると、サイズもあったり、なかったりで大変だし、男の人にもモテないし」
「ご飯は美味しいですか? 」
「美味しいですけど……。それが何か? 」
「食べて、吐いたりしない? 」
「吐かないですよ。だからこんなに太っています」
「ならばいいです。何を頼んだんですか? 」
「サンドウィッチ。ケーキより体に悪くない気がしたので」
「あ、来ましたね」
テーブルの上にはコーヒーとサンドウィッチ、あと、西崎さんの頼んだケーキ二個が並べられた。早速ナツがぱくっとサンドウィッチをつまむと、西崎さんはニコッとして、自分もケーキを口に運ぶ。彼はほっと息を吐き、言う。
「普通の食事ですね」
「はい、軽食ですけれど。それが? 」
「食事中申し訳ないですが、僕の彼女、食べても受けつけなかったから、この平和な食事風景が新鮮です」
「コーヒー、どうですか? 」
「うん、おいしい」
「私、今日のデートに、複雑な気持ちで来ました」
「……」
「自分が、西崎さんに何を求められているのか、よく分からなくて。私に何ができるのか、それを知るために来た感じ」
「僕、多分古川さんに甘えています」
「ん? 」
「助けてほしいと言ったら、助けてくれそうな人を求めていたのかもしれません。それが……、古川さんだった。僕のエゴイズムです」
「私は、助けたいと思いました」
「―僕を? 」
「はい。助けられないとしても、何かしたい。そう思って、今日来ました。だから利己主義なんて思わないでください。私だって、自分のやりたいことをやって、知りたいことを知ろうとしているだけです。それを互いにエゴと、呼び合いますか? 」
「ということは、お互いの欲求が噛み合っている。そういうことですか? 」
「そうだと思います」
「歯車状態だってことか。僕自身に動きたいという意思があるなら、古川さんの力を借りつつ、動き出せるかもしれないっていう」
「人の死を経験するって、軽いことではないと思います。彼女の死について、自分に責任を感じたりしていますか? 」
「役立たずだったと、思ってはいます。責任かどうかは分からないけれど。でも亡くなる一年くらい前から、彼女がここから、っていうのは現世みたいな意味だけれど、逃げていくイメージだった。だから僕が彼氏として存在する意味を、見失いそうになっていたな。古川さん」
「はい」
「僕、今楽しいです」
「そうですか? 話のテーマは全然明るくないけれど」
「古川さんの力なのかな。僕、人生を楽しめるみたい」
「楽しめますよ、きっと」
「今日は、僕、食べます。もう食いたくないって、本当に思えるくらい」
「分かりました。面白いお出掛けになりそうです」
そう言い合って、ナツと西崎さんはクツクツと笑った。
「遠慮なく食べてください。僕も今日は食べます」
「あの、私、太ってて。一応ダイエット中なので、たくさん食べるわけには、」
ナツの言葉に西崎さんは急速に複雑な表情を見せた。そして言った。
「太っていないじゃないですか」
「太っています! 標準体重より十二キロも重いんです。服を普通のお店で買おうとすると、サイズもあったり、なかったりで大変だし、男の人にもモテないし」
「ご飯は美味しいですか? 」
「美味しいですけど……。それが何か? 」
「食べて、吐いたりしない? 」
「吐かないですよ。だからこんなに太っています」
「ならばいいです。何を頼んだんですか? 」
「サンドウィッチ。ケーキより体に悪くない気がしたので」
「あ、来ましたね」
テーブルの上にはコーヒーとサンドウィッチ、あと、西崎さんの頼んだケーキ二個が並べられた。早速ナツがぱくっとサンドウィッチをつまむと、西崎さんはニコッとして、自分もケーキを口に運ぶ。彼はほっと息を吐き、言う。
「普通の食事ですね」
「はい、軽食ですけれど。それが? 」
「食事中申し訳ないですが、僕の彼女、食べても受けつけなかったから、この平和な食事風景が新鮮です」
「コーヒー、どうですか? 」
「うん、おいしい」
「私、今日のデートに、複雑な気持ちで来ました」
「……」
「自分が、西崎さんに何を求められているのか、よく分からなくて。私に何ができるのか、それを知るために来た感じ」
「僕、多分古川さんに甘えています」
「ん? 」
「助けてほしいと言ったら、助けてくれそうな人を求めていたのかもしれません。それが……、古川さんだった。僕のエゴイズムです」
「私は、助けたいと思いました」
「―僕を? 」
「はい。助けられないとしても、何かしたい。そう思って、今日来ました。だから利己主義なんて思わないでください。私だって、自分のやりたいことをやって、知りたいことを知ろうとしているだけです。それを互いにエゴと、呼び合いますか? 」
「ということは、お互いの欲求が噛み合っている。そういうことですか? 」
「そうだと思います」
「歯車状態だってことか。僕自身に動きたいという意思があるなら、古川さんの力を借りつつ、動き出せるかもしれないっていう」
「人の死を経験するって、軽いことではないと思います。彼女の死について、自分に責任を感じたりしていますか? 」
「役立たずだったと、思ってはいます。責任かどうかは分からないけれど。でも亡くなる一年くらい前から、彼女がここから、っていうのは現世みたいな意味だけれど、逃げていくイメージだった。だから僕が彼氏として存在する意味を、見失いそうになっていたな。古川さん」
「はい」
「僕、今楽しいです」
「そうですか? 話のテーマは全然明るくないけれど」
「古川さんの力なのかな。僕、人生を楽しめるみたい」
「楽しめますよ、きっと」
「今日は、僕、食べます。もう食いたくないって、本当に思えるくらい」
「分かりました。面白いお出掛けになりそうです」
そう言い合って、ナツと西崎さんはクツクツと笑った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
よくできた"妻"でして
真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。
単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。
久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!?
※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき
山いい奈
ライト文芸
★お知らせ
いつもありがとうございます。
当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。
ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。
世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。
恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。
店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。
世都と龍平の関係は。
高階さんの思惑は。
そして家族とは。
優しく、暖かく、そして少し切ない物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
一か月ちょっとの願い
full moon
ライト文芸
【第8位獲得】心温まる、涙の物語。
大切な人が居なくなる前に、ちゃんと愛してください。
〈あらすじ〉
今まで、かかあ天下そのものだった妻との関係がある時を境に変わった。家具や食器の場所を夫に教えて、いかにも、もう家を出ますと言わんばかり。夫を捨てて新しい良い人のもとへと行ってしまうのか。
人の温かさを感じるミステリー小説です。
これはバッドエンドか、ハッピーエンドか。皆さんはどう思いますか。
<一言>
世にも奇妙な物語の脚本を書きたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる