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33.ふぁいと
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「はい? 」
「ナツです。今、お話してもいいですか? 」
「いいわよ。それよりまず、私が話してもいい? 私ね、一日だけ働いたわ」
「えっ。マリアさんが? 」
「そう。私が、よ。明日も仕事」
「何か大変なことが起きたのですか? 自分を全否定されるような」
「何でそういう発想になるのよ。みんな働いているじゃない。だから私もやってみたくなっただけ」
「……あの、衝撃が凄すぎて、何も言葉が思いつかないんですけども」
「褒めてるの、けなしてるの」
「感動してます」
「……。それより、ナツの話って何。何か弾んでいる感じね、雰囲気的に」
「はい、その。私、デートをすることになりまして」
「特に私が喜ぶ話じゃないわね。付き合っているの? 」
「いえ、その段階ではなく、何というか、このデートは複雑なんです。私ではなく、彼の方が、」
「訳アリって? 不倫? 」
「違いますっ。そういう意味じゃなくて……。嬉しくないわけじゃないけれど、デートについて考えると、ぼんやりしちゃうんですよね」
「でも、行くんでしょう? 」
「行きます。行きたいとも思っています、自ら。でも何だかモヤモヤしてる。とっても」
「多分だけど、詳しくは知らないけれども、デートに行けば、そのぼんやりも、モヤモヤも、晴れるんじゃない? 」
「そうでしょうか」
「そのためのデートって感じね。話を聞いた限りでは」
「うん。なんか見えてきた感じがします。そうなのかもしれないな。ありがとう。なら、電話を切りますね。お仕事ファイトですよ」
「言われなくてもファイトしている所よ」
そこで電話を切ると、マリアはウウと唸った。ナツは男と前進中。なら私は?
とりあえず、今はこのまま進むわ。多分、それが私にとっての、ささやかな前進。
マリアは服を脱いで、大事そうにハンガーにかけた。服を眺めているだけで、得体のしれない何かで自分が満たされてくる。
世界とリンクしているような、そんな感じだ。幸せか不幸か分からないけれど、事実として存在する何かが、私と手を繋いだのだろう、きっと。
「ナツです。今、お話してもいいですか? 」
「いいわよ。それよりまず、私が話してもいい? 私ね、一日だけ働いたわ」
「えっ。マリアさんが? 」
「そう。私が、よ。明日も仕事」
「何か大変なことが起きたのですか? 自分を全否定されるような」
「何でそういう発想になるのよ。みんな働いているじゃない。だから私もやってみたくなっただけ」
「……あの、衝撃が凄すぎて、何も言葉が思いつかないんですけども」
「褒めてるの、けなしてるの」
「感動してます」
「……。それより、ナツの話って何。何か弾んでいる感じね、雰囲気的に」
「はい、その。私、デートをすることになりまして」
「特に私が喜ぶ話じゃないわね。付き合っているの? 」
「いえ、その段階ではなく、何というか、このデートは複雑なんです。私ではなく、彼の方が、」
「訳アリって? 不倫? 」
「違いますっ。そういう意味じゃなくて……。嬉しくないわけじゃないけれど、デートについて考えると、ぼんやりしちゃうんですよね」
「でも、行くんでしょう? 」
「行きます。行きたいとも思っています、自ら。でも何だかモヤモヤしてる。とっても」
「多分だけど、詳しくは知らないけれども、デートに行けば、そのぼんやりも、モヤモヤも、晴れるんじゃない? 」
「そうでしょうか」
「そのためのデートって感じね。話を聞いた限りでは」
「うん。なんか見えてきた感じがします。そうなのかもしれないな。ありがとう。なら、電話を切りますね。お仕事ファイトですよ」
「言われなくてもファイトしている所よ」
そこで電話を切ると、マリアはウウと唸った。ナツは男と前進中。なら私は?
とりあえず、今はこのまま進むわ。多分、それが私にとっての、ささやかな前進。
マリアは服を脱いで、大事そうにハンガーにかけた。服を眺めているだけで、得体のしれない何かで自分が満たされてくる。
世界とリンクしているような、そんな感じだ。幸せか不幸か分からないけれど、事実として存在する何かが、私と手を繋いだのだろう、きっと。
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