おんなのこ

桃青

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25.ダイエット2

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 次の日。午前四時。オキヨは爽やかなブルーのジャージ姿で、家を出た。目標は三十分のウォーキングをすることだ。外に人は殆どいず、これなら心置きなく歩くことができるだろう。時計で時刻を確認してから、まだ暗い外界を歩き始める。オキヨは歩きながら思った。
(三十分のウォーキングなんて楽勝よ。私は朝十時から、夜八時まで、日々ショップで立ち、かつ動いているのよ? だから筋肉には多少自信があるわ。ああ、朝って爽やか。虫の声も聞こえるし、こういう運動もいいものだわ)
 だが三十分後。マンションに戻ってきたオキヨは、身も心もボロボロになっていた。ストレス発散ではなく、逆にストレスを溜め込んだかの如く、当たり散らしながらオキヨは思う。
(何が運動よ。何がウォーキング。ああ、体が重いわ。私、これから仕事に行くのよ? それなのにこんなに私を疲れさせるなんて。ヘトヘトで大丈夫かしら、私は? これを、こんなものを、毎日やったら膝を痛めるわ。ああ、甘いカフェオレが飲みたい。朝食が恋しい! )
 自分の家に着いて、早足で中に入った彼女は、真っ直ぐに台所へ行き、バタンと冷蔵庫を開けて、すぐバタンと扉を閉め、思った。
(この冷蔵庫に依存する癖を、まずやめなくてはならないのでは……。とりあえず、コーヒーを淹れることにするわ)
 ドリップの準備を整えてから、やかんでお湯を沸かし、工程を踏んで、丁寧にドリップしていく。オキヨはポン、と手を叩いて言う。
「コーヒーには、カラメルビスケットを添えないとね」
 棚から箱を取り出し、蓋を開けると、中にはぎっしりと、おしゃれなお菓子が詰まっていた。その中からカラメルビスケットを三つ取り出し、バリバリと頂く。入ったコーヒーには、ミルクときび砂糖。冷蔵庫から昨日作って置いたゆで卵を三個取り出し、殻をむきつつ思う。
(食べる物を減らすと言っても、栄養もきちんと取らないといけないでしょう? 炭水化物も、野菜も、脂質だって必要よ。とりあえず、全体的に食べる量を減らさないとならない。となると、ゆで卵三つは多かったのかしら)
 そう考えたオキヨは、殻のむけた卵をじっと眺め、二つを取っておいて、一つだけ食べることにした。それからビールのごとく、甘いカフェオレを飲み干し、仕事に行く準備を始めた。

 それから時間が経ち、一日の仕事を終えたオキヨは本屋にいた。お店の店員さんに、ダイエットの本はどこですか? と訊ね、案内された所で、本を物色し始める。分かりやすくて、簡単で、楽しくて、私に合ったダイエットがいいわ。何冊か気になる本を選び取り、レジに向かう。今夜はこの本を読んで過ごしましょう。新しいことを始める前の少し楽しい気持ちで、オキヨはワクワクして、家路を急ぐ。

 途中で夕食のために、遅くまで開いているスーパーに寄ったが、オキヨの人生でこんなに、スーパーで買うものを悩んだことはない。いつもは直感を頼りに、総菜をぼんぼん籠に放り込むのだが、今日誕生した新たな指針、ダイエットを考慮して、さらに自分の食べたいものをとなると、パズルでも解いているかのような苦しみが発生した。
(ご飯と春巻き、ギョーザ、いえ、駄目よ。野菜がないから、春巻きを生春巻きにして、ギョーザを十五個入り、いえ、十五個は多いかしら、五個にして、デザートはケーキ……、まあ、ケーキってこんなにカロリーが高いの? なら、フルーツヨーグルトにする……、頭が疲れたから、甘いものを……、この思考がダメなのね。でもとりあえず、サツマイモ饅頭は買うわ。野菜ですもの)
 興奮で息を荒くして、スーパーから出てきたオキヨは、今度こそ家へと向かう。

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