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20.DEATH
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「可愛いじゃん、そのTシャツ」
小春は目を見開いて、じっとナツを見つめた。ナツは少し得意になって言う。
「いいでしょう。友達と買い物へ行った時に、買ったんだ。ここにハンギョドンがいるんだよ」
「アハハ、ほんとだ。ナツってサンリオ、好きだったっけ? 」
「好きっていうか、友達が好きで、それで―」
「とりあえず、レジお願い。私はやることがあるから」
「うん、分かった」
二人はそう言い合って、ナツはレジに立った。客を待ちながら、何となくスターチスの花を眺めていると、見覚えのある男性が店内をウロウロしている。すぐにピンと来た。この間心の病の彼女に花を買った男性だ。彼はショーケースの前まで行って、立ち止まったので、ナツは声を掛けてみることにした。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「この間、お花を買っていただいた方ですよね」
「え、覚えていますか」
「はい。お話がとても印象的だったので。今日は、どんなお花がお望みですか? 」
「……。花束を作っていただきたいんですけれど」
「はい! 何かご要望などは―? 」
「仏花にしてほしくて。おまかせで作ってもらえるかな」
一瞬、ナツの全ての動きが止まってしまった。仏花? まさか。ナツが何かを悟ったのを感じ取ったのか、そうでないか、彼は静かなトーンで言った。
「僕の彼女が亡くなったんです。そのためのお花を、買いに来ました」
「そうですか。何と言ったらいいのか」
「今の所、酷いショックは受けていないんですよ。何となく覚悟していたことだから。でも、これからじわじわ来るのかな」
「……その女性は、何色がお好きですか? ピンク? 」
「ええ。ピンクが好きでしたね」
「なら、ピンクを入れて、花束を作ります。花束は一つ? それとも二つ? 」
「二つでお願いします。できるだけオーソドックスなのがいい」
「かしこまりました」
ナツはケースの前で、真剣に花を見定め始めた。菊にリンドウ、小菊……。色合いも少しだけ女性らしい感じにして。厳選して一つの花束を作り上げると、振り返って彼に花束を見せ、訊ねた。
「これでどうでしょう? 」
「うん、いいね」
「なら、これを二つ作りますね」
「お願いします」
カウンターで花束を包んでいる時に、ナツは男性の視線を感じた。私のことを見ているんだな、と思ったけれど、性的にとか、女としてという意味合いはゼロで、気になる何かを冷静に眺めている、そんな感じだった。ナツは出来上がった花束を抱えて、レジ前に立っている男性に渡してから、言った。
「お花に『長持ちしてね』と話し掛けると、本当に長持ちするそうです」
「そうなんですか。面白いですね」
「ぜひ、飾る時に試してみてくださいね。お会計は……」
「あの」
「はい」
「自分の彼女が亡くなったときに、こんなことをするのは、不誠実と思われるかもしれませんが、これ、受け取ってくれませんか」
「何を、ですか? 」
「僕の電話番号を、です」
「! 」
「ナンパとかではなく、ただ、……あなたともう少し、話をしてみたくて、それで―」
「あ、あの、」
「迷惑だったら無視してください。そもそも僕の、わがままですから。お金払いますね」
「は、はい」
小春は目を見開いて、じっとナツを見つめた。ナツは少し得意になって言う。
「いいでしょう。友達と買い物へ行った時に、買ったんだ。ここにハンギョドンがいるんだよ」
「アハハ、ほんとだ。ナツってサンリオ、好きだったっけ? 」
「好きっていうか、友達が好きで、それで―」
「とりあえず、レジお願い。私はやることがあるから」
「うん、分かった」
二人はそう言い合って、ナツはレジに立った。客を待ちながら、何となくスターチスの花を眺めていると、見覚えのある男性が店内をウロウロしている。すぐにピンと来た。この間心の病の彼女に花を買った男性だ。彼はショーケースの前まで行って、立ち止まったので、ナツは声を掛けてみることにした。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「この間、お花を買っていただいた方ですよね」
「え、覚えていますか」
「はい。お話がとても印象的だったので。今日は、どんなお花がお望みですか? 」
「……。花束を作っていただきたいんですけれど」
「はい! 何かご要望などは―? 」
「仏花にしてほしくて。おまかせで作ってもらえるかな」
一瞬、ナツの全ての動きが止まってしまった。仏花? まさか。ナツが何かを悟ったのを感じ取ったのか、そうでないか、彼は静かなトーンで言った。
「僕の彼女が亡くなったんです。そのためのお花を、買いに来ました」
「そうですか。何と言ったらいいのか」
「今の所、酷いショックは受けていないんですよ。何となく覚悟していたことだから。でも、これからじわじわ来るのかな」
「……その女性は、何色がお好きですか? ピンク? 」
「ええ。ピンクが好きでしたね」
「なら、ピンクを入れて、花束を作ります。花束は一つ? それとも二つ? 」
「二つでお願いします。できるだけオーソドックスなのがいい」
「かしこまりました」
ナツはケースの前で、真剣に花を見定め始めた。菊にリンドウ、小菊……。色合いも少しだけ女性らしい感じにして。厳選して一つの花束を作り上げると、振り返って彼に花束を見せ、訊ねた。
「これでどうでしょう? 」
「うん、いいね」
「なら、これを二つ作りますね」
「お願いします」
カウンターで花束を包んでいる時に、ナツは男性の視線を感じた。私のことを見ているんだな、と思ったけれど、性的にとか、女としてという意味合いはゼロで、気になる何かを冷静に眺めている、そんな感じだった。ナツは出来上がった花束を抱えて、レジ前に立っている男性に渡してから、言った。
「お花に『長持ちしてね』と話し掛けると、本当に長持ちするそうです」
「そうなんですか。面白いですね」
「ぜひ、飾る時に試してみてくださいね。お会計は……」
「あの」
「はい」
「自分の彼女が亡くなったときに、こんなことをするのは、不誠実と思われるかもしれませんが、これ、受け取ってくれませんか」
「何を、ですか? 」
「僕の電話番号を、です」
「! 」
「ナンパとかではなく、ただ、……あなたともう少し、話をしてみたくて、それで―」
「あ、あの、」
「迷惑だったら無視してください。そもそも僕の、わがままですから。お金払いますね」
「は、はい」
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